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「ずっと自分の部屋から出ないで過ごしていたものだから、久しぶりに外に出たらびっくりしました」
僕の返事を求めるでもなく、白い服のロボットが語り出した。
「私たちを作り出しておいて、先にいなくなるなんてひどいと思いませんか? しかも、私のパートナーは天才的な機械工学博士だったから、私、誰よりも丈夫で長持ちするようにできているんです」
「へえ」
「彼の最後の言葉は、『幸せだった』ですよ! 最初は残された彼の疑似人格データと会話したりして、それなりに楽しく過ごしていたんですけど、同じパターンのことしか言わなくなっちゃって。ねえ? きっと、あなたもそうでしょう? 他のロボットたちもSNSで似たようなことを言っていたし。『私にも終わりを設定してくれればよかったのに、私の幸せの定義は?』って彼に問いただしたい気分です」
白い服のロボットは、僕の相槌の適当さを意に介さず話し続けた。
もっぱら仮想現実の中で生活していたことで、相互コミュニケーション能力値が低下したのか、単に会話のプログラミングがエラーを起こしているのか、そんなところだろう。
「あら、もうこんな時間。早く行ってお花を置いて来ないと」
一方的に話し、一方的に会話を切り上げた、白い服のロボットが「じゃあね!」と手を振って走っていくのを見送った僕は、急上昇していたストレス値を下げるために何度も深呼吸をした。
ふうっと息を吐き、鼻から大きく息を吸い込む。
横隔膜が動くのがわかるくらい深く息を吸って、ゆっくりと口から息を吐いていく。
人間の自律神経を模したプログラムが働いて、ストレス値が低下していった。
「ひまわりの花、きれいだったな」
自分のつぶやきに想起されたのか、夕陽に照らされた僕の視覚モニターにひまわりのようなあの人の笑顔のムービーが大きく映った。
しかし、涙腺から涙が過剰に分泌され、その笑顔は、ぼやけていく。
僕の機能が停止するまであと何日だろうか。
白い服のロボットの話を聞いて、確かに、これだけ人間に近い構造にしたのなら、寿命も人間に近いものを設定してくれればよかったのにと、恨み言をこぼしてみる。
それでも、ひまわりのようなあの人の笑顔は、変わることなく視覚モニターに映っていた。
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