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夏
ミーンミーンミーンミーンミーン
日差しがてかてかと照付けて自分を蜃気楼とほのかな熱気に引き込んで離さない。そんな日差しの中で男の子が虫をとって遊んでいる。
男の子の虫かごにはカブトムシが二匹ぎしぎしと音を立てながら威嚇している。
そんなことお構いなしという感じでもう一匹ゲットしようとしている。
僕「よいしょっうんしょっ上にいそうなんだけどなあ?」
木にヒシっとつかまりながら腕をもがきながら上へ上へと登って行こうとする。
しかしかごが邪魔しているのか男の子は上に行けないでいる。
女「僕くーん!あぶないようー!」
ふと下に目線を落とすと女の子が手を振りながらこちらへと駆け寄ってきていた。
その様は、なんというか、アリが一匹だけ列をはみ出て右往左往しているような。そんな感じにも見えた。
面白くてそのままじっと見つめていると
女「こら~!僕くん私に言うことあるでしょー!」
遠くからでも聞こえるようなでかでかとした声で僕に問いかける。
何のことなのかというのは分かりきってはいた。が、いうことが躊躇われることでもあった。
此処から叫べば林を通りすぎてもはや住宅街まで聞こえてしまうんではないだろうか?
そんなことを素で考えてしまうほど子供だったというだけの話なのだが。
どうしようか。叫んでもいいのだがとても恥ずかしい。とても。
だが女の子はそんなことは許してはくれそうもなかった。
女「僕くんー!言わないなら私が言っちゃうよー!」
仕方ないのである。ここで叫ばれるのはとても”りんり”に反する。りんり?
僕は仕方なく木からするりするりと降りていき、女の子の足元へと走り去っていった。
林の木々たちはそんなことを知ってか知らずか葉のこすれる音でさわさわと音を奏でていた。
僕「ごめん!女が来るなんて思ってなかったからさ。用ってこれのこと?」
ポケットからパンツを取り出して女の子に尋ねた。
もちろん”女の子の”パンツだ。
おっと、紹介が遅れた。ここにいる女の子と男の子。この子たちは兄妹だ。
女の子が妹。男の子・・・つまり僕くんが兄にあたる。そんな関係。
わたし?わたしは妖精さん。人には見えなくて人に悪戯を仕掛けて最後は幸せに導く。それが妖精。
女「僕くん!パンツは着替えの時持ってきてって言ったよね?」
女の子はじりじりと詰め寄る。さながらカマキリのようだ。そういえばカマキリってオスは食われる運命だって誰かが言ってたような。
女の子の手を握ってパンツを渡す。握らなくていいよね?普通に。
僕「それは僕だってすぐに渡したかったけど、女子と着替え別だよね?」
女の子はパンツをはきながら一瞥した。怖い顔でにらみつける。
僕くんはそんなことはお構いなしにカブトムシをカゴから出して遊んでいる。
僕くんにとって”双子”の兄妹のパンツは大してそそられない話題だったのだろう。
女の子は履き終わると、僕くんに目隠ししてこう言った。
女「だ~れだ?」
しばらくして考え終わったのか僕くんが叫んだ。
僕「この石鹼のにおいは女だ!」
女の子は手をそっと放してチョップした。
女「おしっこでも石鹸で洗って。」
なかなかに無理難題を押し付けてくる少女だ。
女の子は知らないけど男の子はおしっこで手は”洗わない”そう、石鹸がどうとかいう話ではなくそもそも洗わないのである。
僕「わかったから。そんなに怒んないでよ。女の可愛さは僕はかっているんだからさ?」
ちょっぷ!ちょっぷちょっぷ!
女の子は赤くなってちょっぷを連打し続けていた。
僕「いてて。んじゃ、そろそろ帰る?まだ明るいけど・・・。」
外はやっと日が頂点から少し傾いたところに差し掛かっているところだった。
あつい・・・。女の子はぱたぱたと服に空気を送り込んで気を紛らわせている。
僕は・・・羽織っていた服を木に掛けて涼んでいた。いややせ我慢していた。
普通にこの気温で平然としてられるのは妹の前だからとしか言えない。
女の子がちらりとこちらを眺めた。
女「はあー。男の子って成長早いよね?こんなに身長なかったよ?」
女の子が見ていたのは身長。頭からつま先までじっと見つめてまた溜め息を吐き出した。
僕くんの身長は最近急成長を始めたともっぱらの噂だ。
ちなみに女の子の身長は秘密らしい。体重はこっそり教えてくれるのに。
女の子の身長を聞くのはタブーだよと怒られたのは記憶に新しい。
やはり身体測定は男女別にしてればいい。そうおもう。
僕「あのさ?帰りたいなら一人で帰ってもいいんだよ?そのかわり扇風機しか使えないから外よりも地獄だけど?」
僕くんは卑怯者だ。本当は帰ってほしくないだけなのにクーラーを使えないことにして引き留めている。
女「ん~?クーラー壊れてたっけ?まあいっか。何して遊ぶ?」
僕「じゃあ秘密基地作ろう!」
口からついて出たのは秘密基地作ろうだった。
秘密基地はこの前から作り始めていてもう完成まじかというところまでできている。
すべて僕くんが”ふたり”で作った。ふたり?ふふふ。何のことでしょう?
女「それって段ボールで作ったあのはりぼったいやつ?」
僕くんの考えてる秘密基地!とは違って見えているようだ。
僕くんは構わず女の子の手を引いて秘密基地に連れて行った。
確かに張りぼてのような見た目だ。実際雨が降ったら崩れ去ってしまう夢の城なのだ。
僕「中は意外と涼しいんだよ?日陰になってて普通に涼しい。」
上を眺めると木の葉が落ちる。木の根元の幹に沿って段ボールを組み立てたようだ。
地面は・・・木の葉が敷き詰めてある。木の葉のじゅうたんとはこれのことだろう。
暗くはなく適度に陽の光が差し込んでいる。
女「ふあー。んー。」
女の子が伸びをする。天井には手はつかない。僕くんはついていたようだけど。
このつくりなら虫なんかもあまり入っては来ないだろう。
といってると木の葉の下からGがこんにちわしてくるんだけどね。
女「あとどこが完成してないの?」
完成はしている。つまるところ呼びたかっただけ。
僕「あー。そうだねー。うーん。段ボールを四角く組み立てて机にしようかなって。」
女「四角く?ああ、普通にガムテープで止めればいいのね?」
ぺたぺた。はりはり。完成!
まさかとは思うけど無計画じゃないよね?僕くんはちゃんと考えて・・・。
女「終わり?」
僕「うん。」
おわった。なんということもないくらいあっけなく。
女「帰ろうか?」
僕「・・・うん。」
無計画の権化だ。僕くんは無計画マン。将来彼女出来たらどうするんだろう?
わたしこと妖精さんの心配をよそに僕くんたちは家路についた。
『ただいまー!』
声が揃ってるのは双子だからだろう。ちなみに”いちらんせいそーせーじ”らしい。
ご飯を食べるのも一緒。・・・お風呂ももちろん一緒。寝るのだって一緒。
ここまでくるともう呆れるしかない。はぁ。羨ましい・・・。い、いやなんでもない。
明日の用意を済ませてから眠りにつく。
ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・
寝息といびきが同居してるかのように響いている。
ここで一つ教えてあげよう。・・・いびきをかいてるのは妹の方。僕くんは文句も言わずにただ寝てるだけ。
こういうのを兄妹の関係性っていうんだよ?妹は妥協しないとできることはない。永遠に。
僕くんは兄だから我慢してる。とかではなく、普通に気にならない。そんな感じ。
そんなこんなで一夜が明ける。そのときにちょっーとだけ細工をさせてもらった。
僕「う、ん・・・ん??なんか起きた。眠い・・・。」
女の子が同時に目を覚ます。
女「んー・・・。眠い・・・。」
セリフまでほぼ同じとは・・・。さすがいちらんせーだね。
細工?後でわかるよ。今はちょっと間が悪い。だから、ね?
『ごちそうさまー』
ランドセルを背負って学校に行く。学校のチャイムは鳴ってる。
キーンコンカーンコン。
女「ほら!急ごうよ!朝はいつもこうだよね。僕くん?」
僕「う~~~!行きたくない・・・。ねむいー!」
わがままを言ってる僕くんを後ろから押して先へと進んでいく。
横断歩道を渡って、坂道を登って、それから校庭を横切っていく。
僕くんはまだグズッてる。クスっ!あの年頃が一番かわいいんだよねえ。
私がそばから見てることなどに気づかずに階段を上っていく。
女(僕くん半分寝てる・・・。仕方ない)
はむっ!
僕「!!!」
はむはむ。
僕「!?」
女「どう?起きれた?」
こんなことする兄妹この世にいないよ?はむっ!は普通しないよ?
僕くんは赤くなって教室へと逃げていった。
怒ってるのかわからないけどとりあえず目は冷めたようだ。
僕くんにクラスメイトが近寄る。
「ねえねえ。なんか顔赤いよ?熱あるんじゃない?」
「昨日早退してたしさあ?きぶんわるいとかじゃない?」
「なになに?僕くん風邪ひいたの?」
相変わらずモテルこと。モテること。
女の子がほんとに兄妹なのかと疑い始めたころに朝の会が始まった。
朝の会と朝の授業、昼の授業もいつの間にか終わっていてまたアレが始まる。
「ドッチボールやろうぜ!」
男子に声をかけまくる声でか野郎。これで人気者だというから驚きだ。
僕くんは無視をしていたがちょっと無理やり気味に連れていかれる。
女(男の子って大変だなー)
そう思いはするものの助け舟など出すはずもなく、ドッチボールに参加していた。
僕「えい!」
思いっきり投げる。思いっきり?
ワンバウンドしてとられてアウト!というありがちな展開になってしまう。
女(ふーん?あれワザとだ。)
女の子には見抜かれていたらしい。そう、面倒だからあたったのだ。外野なら投げたり取ったりしなくていい。
女(策士だなー)
僕くんは外野できたボールを蹴り返して対応している。
女の子に感心させるほど”達観”してるマセガキ。それが僕くん。
僕(あっ、女が見てる。無視無視・・・。)
女の子がそのあとまでずっと眺めていたのを私は知っている。
キーンコンカーンコン。
さよなら またね 先生バイバイ
子供の甲高い声がそこら中から聞こえる。
夕焼けにはまだ早い。むしろこれからがお昼時だというような時間。
僕くんはいつの間にか消えていた。
女(ふーん。まあいつものところだろうけどね。)
坂の反対側。むしろ坂。一周回ってむしろ坂の帰り道ではない方に歩みを進めた。
僕「これで十匹目っと!はあはあ。カブトムシ、メスも混ざってるや。」
女の子のことなどどこ吹く風。むしろ解放されて清々するくらい・・・。
なんかもやもやする!女を探そうかなと考えていると。
女「僕くーん!またカブトムシー?よーくーあーきーなーいーねー!」
女の子の声は・・・後ろから?
よく見ると木の下にいつの間にか来ていたようだ。
僕「飽きるとかの問題じゃなくてねー?大きいのとか小さいのとか一杯集めるのがー?楽しくてねー!?」
でかでかしい声で女の子に説明してくる。女の子はわかっているかいないかわからない。
私の勘だけども、女の子の質問に他意はない。ただ単純に聞いてるだけ。
僕くんの趣味をちょっーとだけでも理解したいとかそういう感情。
ただ、ただ単純に僕くんと喋りたいだけ。そんな感情。
僕くんは分からないのかも知れないけどね?私にはなんとなくわかる。
女「ねえ、僕くん。今日はちょっとだけ冒険してみない?」
僕「冒険なら毎日してるよ?ほら、こんなにいっぱい。」
かごに入ったカブトムシたちが外に出ようとしてる。が、気にしない。
女「でもそれ結局逃がしちゃうんだよね?もうちょっと実のあることをしようよ。」
僕くんはかごの中のカブトムシを一匹ずつ取り出して戦わせている。
子供は時に残酷な生き物だ。そんな大人の言葉がうっすらと浮かんだ。
で、でも僕くんのは最終的に逃がしてるしノーカンだよね・・・?
私の脳裏に僕くんのしてることを自分に置き換えようとしている。
妖精『きゃあ!僕くん!なにするの!?』
僕『ぐへへ・・・(笑い方には諸説あり)今からお前の服を一枚一枚取ってやるぞ・・・。』
僕くんの手にした棒で服をめくっていく。
妖精『や、やめて・・・こんなのってあんまりだよ・・・。///。』
僕『ここをとったらどうなるのかな?ふへへ・・・(笑い方には諸説あり)』ビリビリ!ビリ!
妖精のあられもない姿が目に映る。というかそれしか目に映ってない。
妖精『はあはあ・・・(これ以上剝がすものはないよね?)僕くん、もう終わりでしょ??』
僕『まだ・・・したがあるでしょー--!!!!!』
・・・。・・・。・・・。
ん。しまった。つい妄想が捗ってしまった。僕くんたちは?
後ろから声がする。秘密基地の方か。
女「僕くん。暑いよ・・・ちょっと脱いじゃわない?ちょっとだけだから・・・ちょっとだけ。」
僕「・・・。あづい・・・。」
妖
精さんピーンチ!このままではR18になってしまう!それだけは避けねば!
ひゅー--・・・。
女「あれ?なんか風吹いてき
た?脱ぐ必要なくなっちゃったね。」
僕(ちっ)
僕くんも男の子かーって舌打ちはしちゃだめだよ。夢の中で念押しとこう。
もうそろそろかな。
ひゅー--・・・。ぶおん!ひゅー--!ごー--!
風が強まっていく。
女「さむい!かえろうか?台風来たみたい・・・。」
僕「ん。かえるかな。懐中電灯もってく?」
僕くんが秘密基地のおくからでかい懐中電灯を取り出した。
カチカチっ!まぶしい光が目の前に飛び出た。それはつまり周りが暗かったってこと。
大丈夫かな・・・?僕くんたち遭難しないかな??
女「帰り道分かるかな?暗くて回りよくわかんないけど・・・。」
僕「んー。じゃあ帰らないどく?」
女の子は首をふるふると振った。怖いのか不安なのか震えている。
僕くんが女の子の手を握った。そういうところが僕くんなんだよなー。
女の子の歩幅に合わせて歩き出す。仲いいなこの双子。
ひゅー--・・・。ごーー-!
風の吹く速度に合わせて歩く。風邪の弱いときは走る。強いときは止まる。
女「ねえ僕くん?慎重すぎない?」
僕「女って台風の時外出たことないでしょ?飛ぶんだよ・・・体がふわって。」
私も経験ある!普通に飛んでたと思ったらあれ?た、高い!ってこと。
女の子はないらしく、へー。と半信半疑だったが。
ばっ!ふいに僕くんが女の子を下がらせる。
どんっ!がしゃあ!がらんがらん。
看板が飛んできていたようだ。あぶないなあ。
女の子はあまりのことに顔面蒼白だった。
女「ぼ、僕くん・・・。もらしちゃった・・・。」
僕「ん。大丈夫大丈夫。帰ったらどうせお風呂入るだろうし。あとは階段だけだよ。ガンバ!」
僕くんの嘘つき。まだ横断歩道あるよね?
女「うう・・・。」
僕「大丈夫? !!!。そうだ。おんぶしてあげる。」
優し・・・くないな!これ絶対あとでいじってくる奴じゃん!サイテーだね!
女の子を背負って横断歩道、階段を上ってとうちゃーく!
女「あ、ありがとう・・・。僕くん一緒にお風呂入ろうか?」
今日も今日とて風呂!飯!寝るのも一緒!
ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・。
あいかわらずのいびきかと思ったら、僕くんのいびきだ。珍しいこともあるもんだ。
女「僕くん・・・うるさい・・・」
僕「ZZZ・・・ZZZ・・・」
相当疲れたんだろう。おきないや。
女「ん~・・・ねむいよ・・・」
僕「Z~Zっ!・・・」
止まった?
ZZZ!ZZ!Z!
こいつわざとやってない?
女「僕くん!もう無理!おきてよ!起きれ!」ドカッ
僕「いたっ!ん~なんだよ!眠いんだよこっちは!」
ドカッドカッ!どん!ごきっ!ドカッ!
言っておくけど殴ってるのは妹だけの一方通行である。
ドンっ!!!
僕くんは気絶してしまった。
ちゅんちゅん
女「ふあぁー・・・。僕くん?」
僕くんの寝ていた布団はもぬけの殻だった。
多分もう起きて学校に行ったんだろう。
女の子も急いでしたくする。
眠い・・・僕くんに一言言ってやらないと気が済まない。
女の子は学校へと急いだ。
キーンコンカーンコン。
「あれ?僕くんは休みかな?女ちゃん何か聞いてる?」
女「いえ、特に何も聞いてないです。」
「じゃあまあ後で確認してみるかな。じゃあ掃除いってきてくださーい。」
昼休みも放課後も僕くんは戻ってこなかった。
女(あそこかな?秘密基地の・・・。)
大して気にしてない風を装っていたが実際は心配。
女(早くいかなきゃ)
―――――――――――――――
―――――――――――
――――――――
僕「ん・・・ここは?」
秘密基地のようだ。日差しがまぶしい。
かえろう。なんか女に理不尽に蹴られた気がするし。
僕「ん?こんなところに道あったっけ?」
秘密基地の横。おおきな穴・・・というか道が口を開けていた。
進んでみようかな・・・。好奇心に逆らえないのは男の子として当然のことだった。
がさがさ。草をかき分けて進んでいく。
僕「わあ・・・。」
目の前に広がっていたのは平原。じつに心地がいい。
寝転がるとため息とともに寝息を立てた。
「すーすー。」
?。もう一つ寝息が聞こえる。
「すーすー。」
女の子が眠っている。
(か、かわいい・・・!!)
僕くんは女の子の隣に行くと眠ってしまった。
僕「ここが天国・・・むにゃ。」
「う・・・ん。」
女の子が起きたようだ。実際まだ眠たかったがとりあえず起きておいた。
僕「おはよう。」
「おはようございます。あなたは?ここは私の家の庭・・・だったはずだけど。」
僕「名乗る名はない。僕くんとでも呼んでくれ。」
「私は夏。うしろの家の主人よ。」
主人は言い過ぎではなかろうか?
ぐぅ~~。。。
夏「あら?朝ごはんはまだなの?じゃあ食べてく?」
僕「お言葉に甘えて。」
僕くんの言葉遣いが変だ。ここは夢の中?
夏ちゃんに連れられて少し進むと豪邸が立っていた。
夏「いただきます。」
僕「いただきます。」
もぐもぐ。もごもご。もぐもぐ。
『ご馳走様でしたー。』
軽食を済ませた。
僕(ちょっと足りないなあ)
夏ちゃんは踊るようにウキウキしながら、
夏「ねえ遊びましょう?」
僕「そんなことは別にいいんだけど学校行かなきゃ」
夏「学校・・・ってなに?」
学校を知らないんだろうか?
僕「勉強したり遊ぶところだよ。」
夏ちゃんは首を傾げた。
どうやら学校に行ったことがないらしい。
夏「学校なんて行かないでここにいればいいのに。」
学校に行かない・・・?そんなこと考えたこともなかったな。
今何時だろう?・・・9時か。もう間に合わないしさぼっちゃおう。
さぼるのなんていつものことだ。気にしない気にしない。
夏「ねえ鬼ごっこしましょう?ずーっと一人きりだったから退屈だったの。」
僕「ふーん?女の子が男の子に追いかけっこで勝てると思う?」
夏「さあ?やってみないとわからないじゃない?」
じゃんけんポン!
・・・。夏ちゃんは速かった。
走り出すと同時に捕まる。軽く歩いているようで距離が詰められない。
お情けで鬼を変わってもらったらまたまたすぐに捕まる。
僕「はあ、はあ、夏ちゃんって・・・なにもの?」
僕くんの疑問は飛行機雲の様に走っては消えていった。
夏「そろそろお昼じゃない?ねえ。サンドイッチ作ってきたんだけど?」
僕「きゅ、休憩・・・。」
僕くんはばてるとその場に寝転がった。
夏「もぐもぐ」
僕くんはとてもじゃないけど食べる気にはならなかった。
でも、新鮮だった。いつもかけっこも勉強も一番だったのになぜか夏ちゃんにはかなわない。
何か秘密があるんだろうか?秘密を考える間もなく眠りについてしまった。
――――――
――――――――――
―――――――――――――――
女「僕くーん!いないのー?ねえー!」
いくら呼んでも返事は返ってこない。
もしかして秘密基地以外のところに行っちゃったとか?
ううん。僕くんがそんな無謀なことするはずがない。
女「僕くん・・・。」
キラッ。
何かが光ったように思えた。
女「看板?なになに・・・この先の旅館兼事務所取り壊し予定?9月24日・・・?明日じゃないの?」
この先に旅館があるなんて聞いたことがない。
誰に聞いたって同じ答えが返ってくるだろう。
でも・・・僕くんが”もし”迷い込んでいたら?
草の根をかき分けて道とは呼べない道を進んでいった。
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――――――――――――
―――――――――
夏「僕くんは眠っちゃったか・・・。やっぱり伝えるべきだったかな?」
夏はほくそ笑みながらそうつぶやいた。
僕くんの寝息だけが聞こえてる。
すーすー。うん・・・。すー。
此処には誰もいない。わたしでさえいないのだ。
この空間にとらわれたら最後、なかったことになる。
存在自体、ううんちがう。”神隠し”みたいなものだ。
お父さん・・・つまり私の前の人は壊れて消えちゃった。
何もない空間に一人で10年。つらかった。
だけどもう大丈夫。僕くんが私の代わりになってくれる。
夏ちゃんが僕くんの前髪に触った。
夏「ふふ。現実の髪の毛。久々だなあ。少し癖っ毛?ふふ。」
もう夜になる。子供は眠る夜の時間。
がさがさ。
何かがこっちに入ってこようとしている。
ネコか何かだろうか?
念のため見に行ってみよう。
――――――
――――――――――
―――――――――――――――
女「はあ、はあ、ここ狭くて通れないな。もう少しなんだけど・・・。」
女の子の前には塀が広がっている。が、ところどころ崩れていては入れそうだ。
女「うんしょ・・・。ふぅー。何とか通れた。」
目の前には草木がおいしっげった空き地があった。
ここに旅館があるのだろうか?
女「それよりちょっと休憩・・・。」
水筒の水をコップに注ぐと誰かが話しかけてきた。
「ねえ?ここで何してるの?」
女の子だ。しかも結構かわいい。嫉妬。
女「あ・・・えぇーと。探し物!探し物してて!」
「ふーん。手伝ってあげようか?」
少女は興味なさげにそういった。
女「私のことは・・・名乗る名はない!女と呼んでくれ!」
「!!!」
少女は少し驚いたが平静を保ち
「私は夏。夏って呼んで。」
そう自己紹介をした。
女「夏ちゃんね・・・。探してるものっていうのは兄妹なんだけど・・・。」
夏「そう。でも人なら簡単よ?このだだっ広い空き地にいたらすぐわかるもの。」
確かにその通りだ。
女「僕くーん!いないのー??」
シーーーン・・・
誰も答えるはずはなかった。
答える”はず”はなかった。
女「!。」
女の子の勘が何かを告げていた。
女「僕くん?」
夏「僕くんなんていないよ。もう帰った方がいいんじゃない?」
夜も更けてきて肌寒くなってきた。
女「こっちから僕くんの匂いがする!」
たったったっ!
はしった先にはおんぼろで今にも壊れそうな洋館があった。
女「旅館・・・?看板にあった・・・。」
夏ちゃんがいつの間にか隣に立っていた。
夏「入ると危ないよ。明日取り壊されるんだから入っちゃダメ。」
女「でも・・・。僕くんがいるなら助けなきゃ!」
女の子が走って洋館に踏み入った。
夏「あ~あ。僕くんはそこにはいないのにね。」
夏ちゃんは裏庭の方へと回った。
女「けほっ!煙たい・・・。僕くーん!」
探し回っても見つからない。
もしかしたらもう家に帰ってるんだろうか?
ギィ―ギィ―。
不気味な音が響いている。よるというだけで怖いのに。
女「アルバム?」
ぺらっ。
古ぼけた写真に夏ちゃんが写っている。
女「夏ちゃんのお母さんかな?似てる・・・むむむ。」
添えられるようにメモ書きが添えられていた。
『東棟。窓付近雨漏りにつき床が腐ってます。気を付けて。』
もしかして僕くん底から落ちたんじゃ?
急いで東棟へと向かった。
――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
まどろみの中、女の子の声がする。
女「・・・・・・・・!・・・・・・!」
僕「うーん、うるさいよ・・・。」
目をこすって周りを確かめる。
どうやら部屋に運ばれたようだ。
夏「あっ。目が覚めた?夕飯にする?それともお風呂?」
僕「うーん・・・。お風呂・・・。」
女の子の声がする。
女「ぼ・・・・・・!・・・・く・・・!」
疲れているんだろうか?
声は真上から聞こえてくる。
ぴちゃっ。
雨漏りだ。冷たい水が首筋にかかってきた。
子供のはしる音がする。
僕「!。女!そうだ僕・・・なんでここにいるんだろう?それより女のところに行かないと!」
僕くんが階段を駆け上がっていく。
女「ここから外が見える・・・僕くん外にいたりして?」
女の子が窓を覗く。
バキバキっ!
足場が音とともに崩れていった。
女「きゃー----!!」
がしっ!
女「僕くん?」
僕「んー!重い・・・25キロって嘘ついたでしょ・・・。」
女「ばか・・・心配したんだからね。ぐすっ」
女の子を引っ張り上げるとすぐにその場を離れた。
夏「あーあ。行っちゃったか。まあいっか。この遊び場も今日で終わりだし。」
夏の影がスーと消えていった。
両親はさほど怒ってなかったが女の怒りはすごかった。
6日ほど口をきいてはくれなかった。
あの廃旅館はというと取り壊されて新しい建物が建ったらしいが幽霊が出るという噂で結局買い手がつかづじまいだったらしい。
女「ねえ?なんであの時助けてくれたの?私たち喧嘩中だったじゃない?」
僕「女が蹴ってきたから。」
女「?」
僕「やり返さないと気が済まないからかな。」
やっぱりこの兄妹は・・・すごい。
妖精さんのガイドもここでおしまい。
妖精さんの正体は登場人物の中に。だよ。
秘密基地の壁に吸い込まれるように妖精さんは消えていった。
もう戻ってくることはないだろう。
次に会うときは来世かな?
完
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