怪盗は月明かりに輝く

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「……明日、わたしの大切な人が日本を発つの。しかもね、いつ戻ってくるのかわからないんですって」 「おや、まぁ」 「彼はわたしの幼馴染でね、小さい頃から画家になるのが夢だったの。風景画が得意で、よくスケッチしに二人で出掛けたわ。真っ白い紙に目の前の景色がどんどん再現されていくの。まるで魔法みたいに。わたしはそれを見てるのが好きだった。あ、そうそう。実は絵のモデルになったこともあるのよ? 人物を描くのは苦手だって言って、途中でやめられちゃったけど」  当時を思い出しているのだろうか。彼女は懐かしそうに語った。 「……コンクールに出した彼の絵がフランスのとある画家の目に留まってね、そのまま向こうで学ばないかって誘われて。彼、すごく嬉しそうだった。ずーっと隣に居たけどあんなに喜んでる姿を見たのは初めてよ。わたしも……わたしも彼の夢が叶うのはとても嬉しい。これは本当よ? だけど……だけど……」  内側から込み上げてくる何かが、彼女の涙腺を強く刺激する。 「……離れ離れになるのは、寂しいわ」  ハラリ。  彼女の瞳からは透明な涙がこぼれ落ちた。怪盗はコンクリートにぽたぽたと落ちるそれを静かに見つめる。顎に手を当て何か考えるような素振りを見せると、もしやとばかりに口を開いた。 「もしや、貴方は幼馴染の彼に好意を抱いているのですか?」 「……ええ、そうよ」 「なるほど! それで夜空を見上げながら一人涙を流していたのですね?」 「……そうよ。悪い?」  ずずっと鼻をすすって怪盗を睨みつける。 「ああ、不快にさせてしまったなら申し訳ない。……どうも私は人の感情に疎いらしくて……怒らせてしまうことが多々あるんですよ。悪気はないのですが……困ったものです」  怪盗は彼女の目をまっすぐ見つめ、真剣な表情で問う。
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