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自分に余裕がないと、人に優しく出来ない。
とげとげを纏って、もう、傷つきなくないと武装して強がって。
1人でも大丈夫と意気込んで。
でも、本当は足が震えていて。
櫻井さんみたいに可愛くなりたい。
陽子先輩みたいに強くて、格好よくなりたい。
でも、そんなの無理だって、最初から心の中では諦めている。
可哀そうな私が、嫌。
達也に捨てられた私は、みじめだ。価値がない。魅力もない。
ぐるぐると悩んで、悔やんで、あの時ああしておけばこうしておけばを繰り返しては自分の声に耳を塞いだ。
やめて、やめて、やめて。
嫌い、嫌い、嫌い。
ぎゅっと両耳に押し当てた自分の掌を、今。
私より大きな手にそっと外してもらえた。
「甘い物とコーヒーって最高の組み合わせよな。考えついた人天才ちゃう?」
マグカップに口をつけて森宮さんがしみじみ言うからおかしかった。
「いちごのタルト、すごく美味しいです」
「そう言ってもらえると作った甲斐あるなぁ」
「森宮さん」
彼が視線を持ち上げる。解れた心が温かい。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとう」
顔を見合わせると、どちらともなく笑みがこぼれた。
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