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自分達のデスクがある経理部へ戻ると、陽子先輩が声を落として私を呼んだ。
「澄ちゃん? ……あの、大丈夫?」
その一言に優しさが滲んでいたから、不意打ちでかけられた言葉だったから私は完全に油断していた。
「だ、大丈夫で……」
最後まで言葉が紡げずに、口を閉ざす。
余計な事を言わない様に。
手に負えない程、傷ついている胸の内を見せない様に。
でも、そんな小手先のごまかしが陽子先輩に通じるわけがなかった。
「お昼、一緒に食べよう! 澄ちゃん」
「え」
「今日はね、パスタの気分。カルボナーラ。ボンゴレ……海老のトマトクリームもいいなぁ! ね、決まり。今日のランチは絶対パスタ。澄ちゃんは、何食べたい? 確か、和風系が好きだったよね?」
近くを東さんと部長が会話を交わしながら通った。
にこっと笑う陽子先輩が、2人からさり気なくこのひどい顔を隠してくれているのだと知って、私は子供みたいにこくこく頷いて、震えてしまいそうな声を飲み込んだ。
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