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絶対無視される、と思っていたのに私の挨拶に、存在に、言葉はきちんと返ってきた。
適度に低い、聞き心地のいい声。
反応が1テンポ遅れた私に、その人は訝しげに首をかしげる。
「俺の勘違い?」
「ち、違います! あ、違うっていうのはえっと、勘違いじゃないって意味です!」
「・・・・・・」
「私、青木と言います。青木澄(あおきすみ)。今日引っ越してきました。よろしくお願いします」
「ふぅん……」
取り出した煙草をくゆらせながらこちらを一瞥する彼に、私は戸惑う。
「あの、何か?」
「聞いとった? さっきの」
「さっきの……」
「女の子の怒鳴り声」
言わんとしていることに気づいて、私は視線をそらしながら、ぎこちなく頷いた。
「すみません」
「なんでアンタが謝るん?」
「き、聞かれたくないだろうなって事を聞いてしまったので……」
涼しげな目が瞬く。
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