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わずかに上がった口元。
「青木さん」
「はい!」
突然名前を呼ばれて、思わず素っ頓狂な声が出た。
今度こそ遠慮なく目の前の隣人は歯を見せて笑った。
「俺、森宮」
「え?」
「森宮成人(もりみやなると)。おたくの隣人の名前」
「森宮さん……」
教えてもらった名前を口の中で転がす。
猫みたいに目を細めて、彼は指さした。
「それ」
「え?」
「俺からの引っ越し祝い」
その先を辿ると小さな鉢に植えられた観葉植物。
「ここ、ベランダ隣とほぼ引っ付いてるやろ。前の住人が置いてったのに時々俺が水やっててん。せやから、今度はアンタが世話係な」
「はぁ」
目の前のイケメンがベランダを越しにこんなに小さな植物に水をあげてる姿がにわかには想像できなくて、私は気の抜けた声しか出ない。
っていうかやっぱり、前に住んでいた人の忘れ物だったんだ。
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