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「良かったわ。新しい世話係見つかって」
「へ?」
「アンタちゃうよ。ソイツに言った」
顎でしゃくって森宮さんは言うと、「それにしても」とまじまじと私を見た。
「珍しない? 今の時期に引っ越して。春やったら分かるけど」
「そう、ですか?」
まさか元彼にマンションを追い出されました、とは言えず私は言葉を濁す。
「引っ越しでもして、気分転換しようかなって。こっちの方が職場に近いので」
「気分転換、ねぇ……」
なんだか心の中を見透かされているような声音にどきりとしつつ、平静を装う。
分かるわけない、たった2回会ったばかりのこの人に、私の事情なんて。
口から煙を細く吐き出すと、森宮さんはにっこり笑って「まぁ、お隣さんのよしみって事でよろしく」と言った。
「よ、よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げると森宮さんがぷっと吹き出す気配がした。
・・・・・・笑う要素どこにもないと思うんだけど。
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