プロローグ

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壁には何かの蔓がはっていて、お世辞にも小綺麗なアパートとは言いがたい。 いや、はっきり言ってボロい。 「ここらは静かな住環境ですし、女性の一人暮らしには最適かと」 営業マンもアパートそのものに褒めるべき点を見つけられないらしい。しきりに環境の良さ、それも静けさをアピールしてくる。 騒がしいよりはもちろん静かな方がいいに決まっているけど。 営業マンの早く内見終わらせて、どこでもいいからさっさと契約を結んでくれという思いが痛いほど伝わってきて、私は半ば諦めにも似た気持ちで、彼のセールストークを遮った。 「一応、中見せてもらっていいですか?」 営業マンがドアに鍵を差し込む。 かちゃり、と音がして解錠される。 促されて私は中へ入った。 小さな靴箱、入ってすぐキッチンのワンルーム。 コンロはワンコンロで、洗濯機は中に置けない。 2階なのでベランダに置くしかないだろう。
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