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「鍵、しとらんやん。澄ちゃん。今の世の中、本当に物騒なんやで。危ないよ。気ぃつけんと……」
狭い玄関で靴を脱いでいた森宮さんが顔を上げる。
その表情が固まったのを見て、今の自分の無様な間抜け面が容易に想像ついた。
「……澄ちゃん?」
「も、森宮さん。私……。私……!」
堪えようとすればするほど嗚咽は止められなくて、今まで我慢していた涙が溢れてくる。
「私、本当はここに引っ越してきた理由、気分転換なんかじゃないんです」
「え?」
「元彼に……少なくとも私は付き合っていたと思っていた人に一緒に住んでたマンションを追い出されて。本当に切羽詰まってて」
「うん、落ち着こ? 澄ちゃん。ちょお、こっちおいで」
森宮さんの大きな手が私の両手を包む。
張りつめていた心が一層それで緩んだ。
「た、達也、二股してて。私本当に何も気づかなくて。相手の女の子は同じ会社のすごく可愛い人気者で。……今、その子妊娠してるんです。達也は全然私の事、本気じゃなかった。なのに、私はいつプロポーズしてくれるのかな、なんて思ってました」
「……」
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