プロローグ

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ぽかんと口をあける彼に再度言うと、彼はようやく状況を理解したらしく、「ありがとうございます!」と頭を下げた。 「では、会社に戻りまして、さっそく初期費用その他諸々計算させて頂きますね」 まさかこのアパートで契約を結ぶとは営業マンも想像していなかったようで、私の気が変わるのを恐れてか「では、車まで戻りましょう」と急かされる。 最後にドアを閉める前に、もう1度私は部屋を見回した。 営業マンに聞こえないくらい小さな声で、「よろしくね」と呟く。 こちらこそ。 聞こえない筈の部屋の声があの時、確かに私には聞こえた気がした。
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