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「なかった事にしないで、森宮さん」
「澄ちゃん……?」
「今夜は森宮さんと一緒にいたいです」
身体を寄せる。
力の抜けたふわふわした気持ちで、森宮さんに抱きつく。
額を彼の胸に押し付ける。
自分が自分じゃないみたいだ。
「澄ちゃん、これ以上は……困る」
「嫌いですか?」
「え?」
「私の事、触りたくないくらい嫌い?」
見上げると、当惑した森宮さんが苦しそうに眉を寄せていた。
「そんな言い方、ずるいわ」
「森宮さ……」
彼の腕が私の頭を包む。
腕に込められた力に、私は勘違いしそうになった。
「…嫌われたくないんはこっちやのに」
「……今、なんて?」
かすれた声の真意を拾いかねて、私は森宮さんに聞き返した。
「本当の事、知ったら澄ちゃん、俺を嫌になる」
唇が肩口を這う。
鎖骨に彼の気配をより感じて、おかしな声が出そうになった。
近くに森宮さんはいる筈なのに、段々遠くに行ってしまう気がする。
どこからか柔らかい花の香りがした。
ちくり、首筋にわずかに走った痛みを最後に私は記憶を手放した。
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