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ぽてぽてと歩きながら考える。
森宮さんの唇の感触を首筋が覚えている。
そっと手でそこに触れる。
顔が赤らむのが分かる。
抱きしめられた以降の事を私は覚えていない。
でも、森宮さんはあれ以上の行為をしていない気がした。
いくら私が鈍い人間でも流石にそのくらいは分かる。
森宮さんが私の首筋に顔を寄せた途端、部屋に広がった良い香り。
そうだ、あの時何故か花の香りが漂った。
一輪挿しも、ドライフラワーさえも飾っていない私の部屋で。
「……あれ、何だったんだろう」
ゴミ置場に燃えるゴミを置いて、踵を返す。
と、階段を下りてきた誰かとぶつかりそうになって反射的に謝った。
「あ、すみません」
「いや、こっちこそ……」
その声に思考が停止する。
彼が、「澄ちゃん」と私を見て呟いた。
「森宮さん」
続きをなんと紡げばいいか、分からない。
真っ白になった頭で言葉を探していると、森宮さんから話しかけてくれた。
「昨日はあれからよう眠れた?」
「あ、えっと、はい」
「昨晩、職場の同僚から電話きて途中で俺帰ったけど。よう寝れたなら良かったわ」
「え? 電話?」
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