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「覚えとらんか。澄ちゃん、うとうとしとったもんね。急用ができてどうしても今日出勤できなくなったから休み代わってくれって言われたんよ」
「……そう、だったんですか」
それならあれは全て夢だったんだろうか。
「今からもう、職場の方に?」
「そう。澄ちゃんもこれから会社やろ? 気ぃつけてね」
「はい。森宮さんも、大丈夫だと思うけど、運転気を付けて」
「うん、おおきにな」
森宮さんが駐輪場に置いてあるバイクの方へ行くのを横目で見送り、私は階段に足をかける。
背後でエンジン音がするのを聞いて、切なくなった。
いくら弱っていた時だったとはいえ、あんな都合のいい夢を見るなんて。
部屋のドアの前で立ち止まる。
待って。でも、森宮さんは『あれからよく眠れた?』と尋ねた。
彼がしばらく私の部屋にいた事は事実だ。
問題は森宮さんの言う『あれから』がどこからを指すのかだ。
どちらにしろ、大事なお隣さんに醜態をさらしてしまった事は間違いない。
がっくりと肩を落として、ドアノブを回す。
せめて、森宮さんを見習って、会社には遅刻しないよう準備しよう。
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