壊れオメガは運命という名の呪縛に囚われる

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僕の好きになった人は、姉の夫。 その人と初めて会った・・・いや、初めて見た時から僕の心はその人に染まり、そして僕の全てになった。 アルファの両親とアルファの姉。だけど僕はオメガ。 6歳違いの姉にその恋人ができた時、僕はまだ第二性診断の前だった。だけど生まれた時からの身体的特徴や能力から、オメガであることは分かっていた。だからだろうか。姉はその恋人(ひと)を、僕には会わせてくれなかった。 それまで姉は、彼氏が出来ると決まって家に連れてきては家族に紹介してくれていた。それは僕も例外ではなく、必ず紹介してくれていたのだ。なのにその彼の時は、姉は家に連れては来なかった。 僕だけオメガだったけど、父方母方共に祖父母がアルファ×オメガ夫婦(夫夫)だったため、両親にはオメガに対する偏見は何も無く、そんな親に育てられた姉も当然オメガの僕になんの偏りもなく愛してくれた。なのにその恋人だけは僕には会わせてくれず、外で両親にのみ紹介していた。 それを知ったのは、姉の結婚が決まった時だった。 姉の帰りが遅かったり、時々帰ってこなかったりした日があっても、僕は友達と遊んでるのかと思っていた。大学生だもの。多少は羽目を外すことだってある。 なのに、大学卒業を間近に控えた頃両親から告げられたのは、姉が結婚するということと、結婚後この家から出てアメリカに行くということだった。 春からアメリカに転勤する彼について行くのだという。 全く知らされず、考えもしていなかったことを告げられて、正直僕はショックだった。 姉と仲がいいと思っていた。 好かれていると思っていた。 だから僕にだけ隠し事があるとは、思ってなかった。 だけど姉は僕にだけ彼の存在を隠し、嘘をついていた。そしてさらに、その後も僕にその人を紹介してくれることは無かった。 母がいうには、姉はアルファの彼をオメガの僕と会わせることによって、僕に彼を取られていまうのではないかと恐れているのだという。 僕が姉の恋人を取る。 そんなことあるわけがない。 大好きな姉の大事な人を、僕が取るなんてありえない。 そう思っても、姉は不安だったのだという。 だけど僕は、母からそう聞かされても怒る気にはなれなかった。だってそれは、それだけ姉はその人のことを愛しているということだから。 年の離れた弟が姉の恋人を取る。 そんな馬鹿げたことを心配してしまうほど、姉はその人のことが好きであるということであり、だからこそ卒業してすぐに結婚することを決めたのだ。そして、アルファであるプライドを捨ててまで就職せずにアメリカに行こうとしている。 もちろん、アメリカでも仕事はするだろう。 けれど日本で最高峰の大学に通い、成績も上位だった姉は何も無ければ有名な会社に就職し、アルファの力をフルに発揮して会社の中で上り詰めて行っただろう。それを、恋人のために捨てたのだ。どれほど姉が真剣に、そして深くその人を愛しているのかが分かる。 だから、姉が僕の存在を恐れる気持ちも理解出来る。些細なことでも、心配事は取り除きたいのだ。 そう思ったから僕は、僕からも会いたいとは言わなかった。 会ったところで何がある訳では無いし、その人は姉を幸せにする人で、僕には何の関係もない人だから。 確かに姉と結婚したら、その人は僕の家族になるだろう。けれど特に一緒に住む訳でもないし、何かを共にする訳でもない。これからも年に数回会う程度なら、今から焦って会わなくてもいいのだ。 そう思っていた。 だから互いの家族の顔合わせにも行かなかったし、結納にも参席しなかった。 姉がそれで安心するなら、僕はそれで全然構わなかったのだ。 それでも結婚式は違う。 さすがに弟である僕が出席しないのはおかしい。だから当然僕も式には参加したのだけれど、それでも姉の晴れの日。少しでも嫌な思いをさせたくないと、僕は親族の控え室から出なかった。だから姉の夫になる人と初めて会ったのは、式が行われる教会だった。
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