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番届に婚姻届。
その前にお互いの両親へのご挨拶。
それから僕の引越し・・・これはもう、全く帰っていない僕の部屋を引き払うことになったので、そこにある荷物の整理だ。
本当はキョウにも別の部屋があるんだけど、いずれそこに引っ越す予定なのでそのままにしておくことにした。それまで家賃がもったいないと思ったけど、そっちも持ち家なので問題ないらしい。僕はまだそっちの家には行ったことないんだけど、きっとすごい家なんだろうな。
今すぐそっちへ行ってもいいんだけど、なんだかこの部屋に愛着があって・・・。
だってここでキョウと4年も過ごしたんだよ?思い出がたくさんあるんだよね。
少し狭いけど新婚向けの物件だし、もう少しだけここでキョウとくっついていたい。そう思ってもうしばらくここで暮らすことにした。
という事で、大体の準備が出来たところで、やっぱり最初は両親への挨拶ということになり、僕は母親に電話をした。
母は相変わらず仕事が忙しそうだったけど、会わせたい人がいると言ったらすごく喜んでくれて、次の休みに会うことになったのだけど、僕はそういう話を全くしていなかったので、キョウのことを色々訊かれてしまった。
真吾さんのことがあってから、僕はこの思いを知られないようにと親とあまり話せなかったから、こんなにたくさん話したのは本当に久しぶりだった。
それは母も思っていたのだろう。
まだまだ訊き足りない感じだったけど、『続きは会った時に訊くわ』と母の方から話を切り上げてくれた。だから本当はそこで電話は終わるはずだったけど、僕は最後に姉のことを訊いた。
「姉さんはどうしてる?」
「元気よ」
僕の言葉に、母は驚くほどあっさり答える。だから僕は少し驚いてすぐに次の言葉が出なかった。
「日本に帰ってるのは知ってるでしょ?・・・知ってるわよね?英里が奈央にはもう知らせたって言ってたけど・・・」
「あ・・・知ってるよ。姉さんから連絡来た」
「そうよね。もしかして知らないのかと思ったわ。それで、英里がどうしたの?」
普通にそう話す母は、姉と真吾さんのことを知らないのだろうか?
「あ・・・帰国して直ぐに連絡もらったんだけど、そのあと話してなかったから、今どうしてるのかと思って・・・いま実家にいるの?」
もしかして一人になった姉は、実家に戻ったのではないかと思ったんだけど・・・。
「英里が?うちにいるわけないでしょ?英里なら社宅に入って、新居を探してるわよ」
「社宅?姉さん就職したの?」
「何言ってるの?真吾さんの会社の社宅よ。元々5年間の赴任予定だったから、てっきり日本での住まいを決めてから帰国したのかと思ったら、すごく忙しくって探せなかったんですって。それでなんにも決めずに帰ってきたっていうから心配したけど、運良く社宅に入れたらしいのよ」
本当に何も知らないらしい母はそう言って、一通り姉の近況を話すと電話を切った。
「どうした?お義母さん、都合悪いって?」
電話を聞いたら悪いと思ったのか寝室に行っていたキョウが、戻ってくるなり僕に言う。
「え?あ、大丈夫だって」
きっと僕が変な顔をしていたせいだろう。
心配させちゃった。
「いまね、母さんに姉さんのことを訊いたんだけど」
これ以上心配をかけたくなくて、僕は訊かれる前に自分から母との話をした。
「姉さん、真吾さんとまだ暮らしてるって・・・それ、どういうことだと思う?」
帰国してからもうすぐ2ヶ月。
もしかして、このまま二人は別れないということだろうか?
「どういうことも何も、未だに一緒に暮らしていて、新居も探してるんだろ?だったらもう一度やり直すことにしたんじゃないか?」
キョウもそう思う?
「そうだよね?二人はきっと大丈夫だよね?」
あんなに真吾さんを好きだった姉と、傷つけてしまった真吾さん。二人には本当にに幸せになって欲しい。
あの時、僕がキョウと番になったことによって切れた運命の糸は、きっと真吾さんの中から僕への思いも消したはず。だけど、5年もの間強く抱いた思いはそう簡単には消えないかもしれない。それでもその間ずっとそばには姉がいたはずで、その存在は真吾さんにとってとても大きかったはずだ。
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