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 もし潤を好きだという誰かがいたとしても、潤は恵太以外の人間に想いを向けることはできない。  それがわかっていて、これ以上苦しむ人間を増やす気はさらさらなかった。  だが陽一郎なら、そのあたりの問題はクリアできているということなのか。  潤は彼の言葉を受けて、フルスピードで頭を働かせた。  今までもいい人だとは感じていたし、好きか嫌いかと訊かれたら間違いなく好きだと言える。  恋愛感情はまったくないけれど、それでも単に人間としてだけでも好感を持てる人がずっと傍にいてくれるのなら。  本当に、どちらにもデメリットがないのなら。  ──ひとりでいるよりは、寂しくない。  そうだ。潤は寂しかったのだ。  今までごく自然に隣にいていつも笑わせてくれた恵太がいない日常に、精神的に疲弊し切っている。  心の隙間に入り込んで来た陽一郎の言葉に抗えず、潤は彼の申し出を受けてしまった。  こうして、潤は陽一郎と付き合い始めた。  付き合いとはいってもまるで高校生のような、いやもしかしたらそれ以上に健全過ぎる関係だ。  最初のうちは、平日の仕事と大学が終わった後待ち合わせて外で食事をしたり、たまに飲んだりするくらいでしかなかった。  男同士、二人の真意はともかくデートには見えない筈だ。  しかも服装からもすぐわかる社会人と学生の組み合わせは、傍目には単なる先輩と後輩でしかないだろう。  たとえばリクルート活動だと取られても不思議はない。  普段友人とは行かない、とはいえ潤の「如何にも大学生」風の格好でも居心地の悪くない店を選んで連れて行ってくれる彼。  言動の端々に潤への気配りを感じさせる、優しい、優しい人。  陽一郎が話してくれる仕事関係の話も興味深く聞いた。もちろん彼は、口外できないことを部外者である潤に漏らすことはない。  ただ、当たり障りのない部分だとしても「別世界の話」は十分に楽しかった。
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