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【prologue】
「俺たち、もう無理じゃない?」
潤は、今この瞬間まで恋人だった相手にそう切り出した。
「恵太さんはさ、いま自分のことしか考えられてないでしょ? 俺なんかいてもいなくてもどうでもいいって感じでさぁ。隣にいても、俺のことなんか目にも入ってないんじゃないの?」
「……そう、だな」
「そんな人と一緒に居たって、俺も全然楽しくないんだよねー。だからもう終わりにしようよ。恵太さんだってその方がいいでしょ?」
「確かに、な。今の俺は、悪いけどにーなのことまで気が回らない。にーなの言う通りだよ」
潤が冷たく告げた別れを、彼は何の抵抗も見せずに承諾する。
「にーな。ホントに今までありがとうな」
それでも優しい声で潤に告げて来た。
いつもとても優しくて。
……優し過ぎたのが大元の原因なのかもしれない。もっと我儘を言ってくれれば。
そう感じつつも、結局終着点は何ら変わらなかった、と容易に想像がついてしまう。
潤の姓である『新名』を、『にーな』と聞こえる少し舌足らずの独特のトーンで呼ぶ、──呼んでいた恋人。
「うん」
恵太の最後の礼の言葉におざなりに頷くだけで応えると、潤は即座に彼に背中を向けて歩き出す。
どうにか平静を保っていられるうちに、彼の視界から姿を消してしまいたかった。
潤む瞳も、涙声も、決して悟らせないように。
ただ勝手な子どもだと思っていて欲しかった。何の憂いもなく、彼が潤を、……元恋人を忘れてしまえるように。
さよなら、恵太さん。
ありがとう。今まで楽しかった。
一緒に居られて嬉しかった。
──大好き。
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