『木漏れ日』

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「実は大学時代に親には打ち明けてるんだ。僕は女性は愛せないから、結婚も孫も期待しないでくれって」  初めて聞く話に、潤は返す言葉もないようだ。 「そもそもうちの親はちょっと変わってるっていうか、あんまり子どものすることに興味ないんだよ。あぁ、愛されてないってことじゃなくて『自分の人生だから好きに生きろ』ってタイプとでもいうのかな。親自身が自分の親と色々あったみたいだ。僕、祖父母とはもう二十年は会ってないくらいだし」  おそらく次に会う機会は誰かの葬式だろう、というのはさすがに不謹慎なので口には出さない。 「……そーなんだ」 「そーなの。僕は姉と弟がいてさ。姉は結構年が離れてて、もうとっくに結婚して子どもが二人いるんだよな。親も孫は可愛いみたいだけど、そのために結婚しろとか子ども作れとか口出しする人たちじゃないから」 「そっか、いろいろなんだね」  ぽつり呟くような潤の声。 「……なぁ、潤。何か不安なことがあったら、自分ひとりで悩まないで僕に話してくれないか? もちろん、潤の考えてること全部把握しなきゃ気が済まないなんて思ってるわけじゃないよ。でも僕に、僕たち二人に関わることはさ」  自分が聞いて解決できることもあるかもしれない。今のように。 「うん、わかった。ホントにそうだ、勝手にぐだぐだ考えたことをいきなりぶつけられたって陽一郎さんも困るよね。ゴメン」  陽一郎の思いが伝わったのか、答えた彼の声は少しだけ明るくなった。
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