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だから陽一郎の突然の告白は、潤にとってはただ驚愕でしかなかったのだ。
「なあ、新名」
ある日のサークルで顔を合わせて、その後は恒例の飲み会になる。
お開きの後の駅までの帰り道で、たまたま二人きりになった、その時。
ごく普通に、何気ない風で彼は声を掛けて来た。
いつも仕事帰りなのでスーツ姿しか見たことはない。細く黒いフレームの眼鏡が似合う、落ち着いた大人の雰囲気を纏った先輩。
「ゴメンな。いきなりこんなこと言うの、いくら何でも不躾だってわかってるけど」
少しだけ遠慮がちに、陽一郎はそれでも止めずに切り出す。
「僕じゃダメか?」
あまりにも唐突なその問い掛けに、潤は咄嗟に誤魔化すこともできなかった。
「……か、風見さん。な、んの、話ですか?」
「藤沢とは、もう別れたんだろ?」
予想外の不意打ちにショックで声も出ない潤に、彼が宥めるように付け加える。
「あぁ大丈夫、たぶん僕しか気づいてないよ。僕は新名をずっと見てたから、なんていうか自然とわかってしまっただけだから」
見ていた? 陽一郎が潤を? いったい、いつから……?
「あと、もしみんなに知られるのが怖いっていうことならその心配は要らない。僕は絶対に誰にも口外しない。もし僕のことが信用できないとしても、それとは別に僕には言えない理由がある」
知られていたという事実に混乱している潤に、陽一郎は安心させるように告げた。
「つまり、君もこっちの弱味を握ったってことだからさ。……わかるだろ?」
……この先輩も潤を、男を、好きということか。それを弱味と呼ぶのなら確かにその通りだ。
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