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「それについてはわかりました」
とりあえず、彼の言いたいことだけは理解した。
「でも俺は、弱味とかそんなのは関係なしに風見さんのことは信用してますから」
しかし、重要なのはそんなことではないのだ。
「ただ、け、藤沢さんと別れたから早速次へっていうのは、ちょっと俺は──」
潤は今でも変わらず恵太が好きだ。
別れを選んだことも、他にどうしようもなく仕方なかったと納得していた。
かと言って、すぐに気持ちを切り替えることなんてできるわけもない。
「別に僕のことなんか、好きじゃなくていいんだ」
けれど陽一郎は、そんな潤の心理状態までも把握しているようだった。
「藤沢のことがまだ好きなら、それはそのままで構わない。逆に今僕を好きだって言われたら正直その方が吃驚だな」
そう言って、彼はふっと笑う。
「事情をわかった上でそれでもいいって言ってるんだから、せいぜい利用しろよ。身代わりでも気晴らしでも、僕をどう使おうが自由だ」
「でもそんな、それじゃ風見さんは……」
突飛すぎる提案にわけもわからず零した潤に、陽一郎は平然と答えた。
「僕はさ、新名が好きなんだよ。だから君と一緒に居られるなら、もうそれだけでいいんだ」
清々しい顔でとんでもないことを言い切る目の前の男に、潤は正直戸惑う。
陽一郎が納得尽くで利用されてもいいというのなら。お互いにメリットがあるのならば、そうしてもいいのだろうか。
恵太と別れて、ぽっかりと開いた心の空洞を陽一郎が埋めてくれるなら。
誰でもいいとは思わないし、そのために無関係の他人を巻き込むようなことも御免だった。
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