ぼくのなつやすみ

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 シーンと静まり返る教室。ユウタは読み終わってニコニコしながら後ろを振り向くと、母親の姿はなかった。 「ちょっと君ぃ。今の話、ホント?」 「あ、ちょっと待ってください。これは子どもの作文なので……」 「いや、先生。子どものだからこそウソはないですよね。私、こういう者でして、さっきの話、詳しく聞きたいんですが協力してもらえませんか」  巴くんの父親は警察関係者だった。先月奪われた美術館の宝石強盗の犯人について有力な情報は得られず、苦戦を強いられていたところに内部告発的な情報が舞い込んだ。    それから二十年後。 「あのときは大変だったわよねぇ、お父さん。ユウタに暴露されちゃって。お父さんは捕まるし、私の指輪はみんな没収されちゃうし、近所にはバレちゃうしで、生活持ち直すの大変だったんだからぁ」 「俺のせいみたいに言うなよ。そんなことやってる時点でアウトだろ。盗んだものなんか、子どもに自慢すんなよな」 「でもな? ユウタ。俺の最高記録は一億六千万のティアラなんだけどよ、一週間くらいしたら誰かに盗まれちまったんだよ。今でも忘れられない幻のティアラなんだ……」  その武勇伝は墓場まで持っていく気だな、とユウタは思った。そしてその横で目が泳いでいる母親の顔が、何かを物語っていた。            了  
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