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「とりあえず、もう1万円溶かすしかないわね」
美衣子は立ち上がり、コンビニへと課金用のカードを買いに向かった。化粧は当然しないし、服装はグレーのジャージ。乱れたままの髪型で、高校時代の自分に見せたら泣かれそうな格好で外に出る。
大学時代にまともに就職活動をする気にもならず、卒業してからは実家で暮らしながらフリーターとしてコンビニやスーパー、ドラッグストアを転々としていた。
あの事件以降3年くらい彼氏もできていないし、半年以上同じ職場に居続けたこともなく、将来への不安がないと言えば嘘になるけれど、まだ20代半ばだしと焦る気持ちはそんなにない。
とりあえず生活できたらいいか、と思って日々過ごしているけれど、生活費のほとんどを課金に使っていて、バイトの無い日は昼夜逆転の生活をして、食事も食べたり食べなかったりの美衣子が、まともな生活をしていると言っていいのかは怪しい。
(この1万円を使ったら手元にいくら残るっけ? 多分5000円も残らない気がする……)
毎月お金を3万円入れる約束で衣食住の保証はしてもらっているけれど、このままでは払えなくなってしまう。払えなくなったところで、実家から一人娘に無一文で出て行けとまでは言われないだろうけど、そろそろ本格的にお説教をされそうだ。スマホを取り上げるとか言われかねないし、そうなったら美衣子にとって死活問題である。
それでも、美衣子は推しを出すためにお金を使ってしまう。
(何もかも灯里のせいよ……)
そう強く思うけど、いまだにそう思っている時点で、悔しいけれどわたしはまだ灯里に囚われているのだろう、と美衣子は思ってしまう。
そんな思い出したくないあの子のことを考えながらラフな格好でコンビニに向かって歩き続ける。
「え、美衣子ちゃん、だよね……?」
つまらない考え事をしていると突然後ろから声をかけられて、美衣子は慌てて声の方を降り返った。
(今のわたしを呼ぶなんて、いったい誰なのよ……??)
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