月華に照らされる大地を想う

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 チャックの開いた黒いウエストポーチに手を入れ、一週間前に買ったピアスの小箱に指を触れる。起毛がかった小箱は、なにかから自己を守ろうとしているかのようだ。 「あ、あの⋯⋯さ」固唾を飲んで、少し間を空ける。 「俺と別れてさ⋯⋯イケメンと付き合ったら、いいんじゃ⋯⋯ないかな」  複雑に回る彼女への感情は、この張り巡らされた血管を辿って、まどろんでいる僕の全身へ溶けた。彼女の寝息が、段々と僕の脳の暗闇に馴染んでいく。そして、全てが消えた。
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