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バイオレットフィズをこぼしたような黒紫の空に、二、三の星が香り高く瞬く。百年の人間の活動が、いくつの星の輝きを失わせたのだろうか。錆びきった脳で懸命に解を探すのだが、昼間に詰め込んだ心配事で、すでにその問いが入る余地はないに等しかった。
アパートのベランダから見える狭い夜空には、薄い雨雲をまとった上弦の月が輝いている。その月は、どこか目線を逸らした君の顔みたいに見えた。
月というのは、毎年地球から四センチずつ離れていっている。毎週観ている『宇宙の呼吸』という深夜のドキュメンタリー番組の、先週の回で知った事実だった。時が経てば、人の気持ちも離れていってしまうものなのだろうか。脳の片隅に君を置きながら、今現在も地球から離れている月をすがるように見つめる。
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