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ワンルームの部屋には、壊れかけのエアコンの鈍い音が広がっていた。生ぬるい人工の空気によって、絡まっていた色とりどりの鬱積の糸が一気にほどけた。
キッチンに向かい、手探りで適当なマグカップを探す。スタンドライトの淡い明かりだけで照らされた部屋は、どんよりと薄暗い。コーヒーポットでお湯を沸かし、マグカップにドリップパックを準備する。電球色の明かりに照らされて、マグカップに黒いクレヨンで描いたような猫の顔の絵が浮き上がった。ドクンと胸を打つ。すぐに、人差し指でコップの縁を一周して確認をする。大丈夫、一箇所、ちゃんと欠けている。
君は今、ワンルームの一角に置いてあるシングルベッドで、仔犬のように小さく寝ている。ベッドの上の狭い空白は、僕が十分に寝られるようなスペースを確保しているという彼女の優しさを具現したものだ。その寝顔は実に穏やかで柔らかく、今日のことなんかまっさらに忘れて、呑気に夢の中に溶けているような気がした。
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