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それは突然だった。
青黒く染められていた夜空は
目も開けられないほどに赤く色付く。
痛い
痛い
いたい
この数十秒の時間で
一体何が起きたのか。
そんなことを考える間もなく
私は地面に転がっていた。
ひ
火
炎
燃え盛る炎が
見慣れた街を
歩き慣れた道を
いとも簡単に崩していく。
立ち上がろうと身体に力を入れる。
がしかし
数ミリ動かした右腕は
肘から下が赤く爛れていた。
左腕は…
……………
止まることのない足音。
止むことのない悲鳴。
激痛の中
必死にもがいて仰向く。
頭上を飛ぶ無数の戦闘機。
まるで
花壇にジョウロで水をあげるように
その無情な金属の塊は
私たちの耕した地面を跳ね回り
罪のない命を刈り取っていく。
…
小さく深呼吸。
肺の中の酸素に
周囲を漂う火薬が混じり合う。
もしかすると
私の中でも爆発したのだろうか。
どうしようもない怒りが
どこへ行く事もできない憤りが
動かない私の身体を掻き乱す。
苦しい
怖い
…助けて
そんな言葉の一つ一つが
シャボン玉のように割れていく。
届けたい。
でも
届かない。
私は
私の大切な人は
私の大切な場所は
奪われていいものなのだろうか。
私の生きてきた時間は
私たちの育んできた時間は
意味のないものだったのだろうか。
私は…
私たちは…
沢山の喧騒にかき消されて
私の意識は沈んでいく。
いつになるかわからない。
でも
せめて
見つけてくれるのなら
連れて行ってくれるなら
私を…
…
私を…
………
いつもの光景。
白い天井と
埃を被ったシーリングライト。
咄嗟に確認する。
指と指が重なり
先端まで血液が巡る感覚。
跳ね起きることもなく
ゆっくりと起こした身体は
まごうことなく
五体満足。
今まで見ていた光景も
宙から降り注いだ爆弾も
悲しみに暮れた人々も
全て…
そう
全て…
あれ
私なんで
膝が濡れてるんだろう。
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