落ちゆく月と最後の魔女たち

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 その言葉にマーラは、アインと受けた迫害を思い出し震えた。  二人が魔女になったしばらくあと、故郷で伝染病が広がった。  多くの魔女が難色を示したが、二人は魔力を使って彼らを救った。  病が広がるその街で魔女であることを隠した二人は身を粉にして働いたが、徐々に人々の心に疑いは広がっていった。 「知らない伝染病をなぜ治せる?」 「自ら広げた伝染病を治療し恩を売りに来たに違いない」 「こんな恐ろしいことを人ができるわけがない」 「魔族が人に化けているに違いない」  噂が広がるにつれ感謝は消え、疑惑の目が人々にやどった。  街で暮らしていた頃から仲の良かったエラまでもが向けた恐怖の目を、今も二人は忘れられずにいる。  魔女たちが総出で人々の記憶を消してくれたが、森に戻った二人は以降一度も街を訪ねていない。  得体のしれない力に感じる恐怖に勝つことのできる人は、いないのかもしれない。  それでも二人に彼らを責める気持ちはなかった。  二人の心にあったのは、もう共に歩むことは無理なのだという諦めだけだった。
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