落ちゆく月と最後の魔女たち

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「いっそ落としてしまおうか?」  物騒なことを言い出したのはまだ年若いセレアだ。  たとえ人々からひどい扱いを受けても、基本温厚な魔女たちだったが、セレアだけは違った。  セレアは迫害の恐ろしさを人一倍知っている。  同じ血脈というだけで、両親や妹まで人々は攻撃を受けたことが忘れられなかった。  迫害で右目の視力を失い、歩くこともままならないセレアは、今は仲間のために復讐心を抑えてくれてはいるが、心の奥に燃えるその黒い気持ち は決して消えてない。  人々を恨みこそすれ、救いたいなどとは露ほどにも思っていないセレアの言葉は辛らつだった。  この星が燃えてなくなろうと、魔女たちさえ助かればいい。  魔女たちだけなら他に生きる地を見つけることができると思っているセレアに、イリアナに執着する気持ちはない。 「さすがにそれは寝覚めが悪いよ」  家族を失い、監禁され、生きる気力を失っていたセレアを救った今の仲間がそういうから、彼女は今も月を支え続けている。  決して冷たいだけではないセレアだが、憎しみに燃える残された右目が優しさを取り戻すのは難しい。 「悪くないかもしれない」  レイアがそうつぶやくのを、ぎょっとした目で魔女たちが見る。  水晶の向こうの魔女たちもあまりのことに言葉を失っている。  魔女たちはレイアに全幅の信頼を寄せていたが、驚きを隠せない。  レイアは死を目前にして変わってしまったのだろうか?  自分の死後の世界は、どうなってもいいとでもいうのだろうか?  そんなレイアではないことを知ってはいたが、拭い切れない不安から誰も次の言葉が出ない。  魔女たちはレイアが続きを話すのを沈黙で促すことしかできなかった。
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