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佑人とずっと一緒にいられますように。
縁結びの神様にありきたりな願い事をする。
隣を見ると、佑人はまだ手を合わせていた。
佑人の願い事が終わるのを待って2人で一礼する。
冷たい風に体を縮こまらせながら、境内をのんびり歩く。
「何お願いしてたの?」
「香耶さんと付き合えてることを感謝してた」
「へー。そ、そう」
こういうことをさらっと言ってしまえるのは相変わらず慣れない。
「香耶さんは?」
「佑人との未来のことをお願いしたよ」
大きな池があったので縁にしゃがみこんだ。
小銭を投げ入れないでくださいと看板が立っている。
「私ね、前の夫と結婚してたとき、早く子供が欲しいって思ってたの」
ゆらゆらと揺れる水面を見つめて、昨夜考えたことを佑人に伝える。
「今思うと焦ってたんだと思う。レスになって、結婚したのに幸せを感じられなくて。子供ができれば幸せになれるはずだって」
「うん」
佑人は相槌を打つと、黙って話の続きを待ってくれている。
「でも今は、まったく焦りを感じてないんだ。
佑人といる時間が幸せで、今はただその幸せに身をゆだねていたい。だから、結婚も流れに任せればいいって思ってるの」
「どうしてそう思えるようになったの?」
「前の結婚で受けた傷は、幸せな結婚をすることでしか癒せないと思ってた。次こそ失敗しないって。
でも、結婚って幸せの約束じゃないんだって気づいたの。それよりも、ずっと一緒にいたいと思える人と過ごす時間を、幸せだなって思える心のゆとりが大事だって思えた」
「今は幸せって思える?」
「うん。幸せ」
差し出された手を取って立ち上がる。
風で乱れた髪を佑人が直してくれる。
「香耶さんは愛され下手だからね。すぐ怖くなっちゃうけど、その度ちゃんと好きって伝えるから。素直に愛される練習をしてください」
私の頬をつまんでいじわるっぽく言うと、そのまま手を繋いで歩き出す。
「胸を張って香耶さんのすべてを受け止められるようになったら必ず俺から言うから、それまで待っててくれる?」
視線は前を向いたまま、まっすぐな声で佑人が言う。
「私も、佑人に心配かけないように強くなる。それまでは、お互い仕事も頑張れたらいいなって思う」
「香耶さんに負けないように俺も頑張るよ」
繋いだ手の温もりを感じながら、冷たい風が吹く境内を折り返して本殿まで戻ってきた。
改めて心に誓う。
つかんだ幸せを手放さない。
惜しみなく注がれる愛を信じるって。
鳥居を抜けて神社を後にすると、陽の光に思わず目をつむる。
鳥のさえずりが聞こえる。
車が1台、2台と走っていく。
犬の散歩をする女性が通り過ぎていく。
そんな日常の景色に佑人と2人。
一緒にいるだけで満たされる気持ち。
それを幸せと思える気持ちこそが幸せなんだって、広がる空を見上げて佑人の手をぎゅっと握った。
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