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2章
明日、仕事帰りに服を買いに行こうか。
仕事から帰って、食事とシャワーをすませた夜9時半。
衣装ケースの中身を狭い部屋に広げて呆然とする。どう見ても仕事用の地味な服しかない。
東吾と過ごした家を出るとき、必要最低限の服だけ残してあとは捨ててしまった。
出勤時の着回しに困らなければ十分だと思ったのだ。
永瀬さんから今度は休日に誘われてしまった。
こういうときどんな格好で行けばいいのか、世の女性は誰から教わっているんだろうか。
気合いの入った服装で浮かれていると思われるのも嫌だけど、そうは言ってもオフィスカジュアルか、ちょっとスーパーに行くときに着るくたびれたTシャツしかなくて、さすがにこれではダメだろうと思う。
化粧品だって下地にファンデーション、アイブロウと口紅くらいしか持っていない。
物が少ない生活は快適だ。
でもそれはしばらくおひとりさまを満喫する前提での話で。
こんなことは想定外だった。
仕事帰りに買いに行くとして、その時間に営業している店を思い浮かべる。
ダメだ、今週は残業は避けられない。
仮に間に合ったとしても、服を買うのにいつも時間がかかるわたしが短い時間で見繕ってもいい買い物をできるはずない。
……いいや。仕事用の服で行こう。
急に誘ってくる向こうが悪いんだし。
別に、付き合ってるわけじゃないし。
気持ちを伝えるのはもう少しあとにすると彼は言った。
そのときはホッとしたけど、裏をかえせば時期が来ればハッキリ伝えられるということ。
そうしたら、わたしはどうするんだろう。
どんな返事をするんだろう。
2度も誘いにのって休日にわざわざ会う約束をするのだからほとんど答えは出ている。
その気がないなら断ればいいだけなんだから。
はぁ。
こんな時間になんでこんなことで悩んでるんだろう。明日も朝早いのに。
でも、彼のことを考えているこの時間が嫌いじゃない。
週末だってちょっと楽しみにしている自分がいる。
それなのに純粋に楽しめないのはどうしてだろう。
何かが引っかかっていて、その何かは1つじゃない気がする。
若いうちにもう少し遊んでいればもっと軽い気持ちで向き合えたんだろうか。
そんなことを考えながら服をたたみ直して衣装ケースに戻した。
やっぱり、次の次に会うときまでには新しい服を買おう。
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