沈華

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愛弓と別れてひとりきりのアパートに戻る。 引っ越して一カ月も経たない新しいアパートは前のアパートよりもちょっと部屋が狭いけど、家賃が安くて気に入っている。 なんと言っても、ベランダから見える景色が最高なのだ。  向かいのアパートの部屋に電気が灯ったのを見て、麗奈は薄く微笑んだ。 今日はキャバクラがないし、ゆっくりと観察できる。金曜日は最高だ。  シャンパンを傾けて、鼻歌交じりに麗奈はオペラグラスを手にした。  愛弓には申し訳ないけど、本当に理香子がいなくなって清々している。こんな風に思われる原因を作ったのは理香子だ。私は悪くない。  愛弓に誘われて婚活なんて興味がなかったけど参加した時のことを思い出す。 理香子と二人で街コンの店を回っている時、悠一と出会った。  ちょっと気だるげだけど真っ直ぐそうな瞳。百八十センチ以上あるがっしりした体躯と吊り目の男らしい顔。珍しくときめく男だった。 「彼、野性的で素敵ね」  理香子に対して、うっかり本音を漏らしたのが失敗だった。 はじめは悠一のことを微妙だと言っていたのに、理香子は私の「素敵」という一言で悠一に目をつけた。 その時の彼女の心理は容易に想像できる。 できる女がいいと思う男はできる男で価値がある。そう思ったに違いない。 悠一が大手商社勤務という結婚して経済を安定させたい女にとっては強力に魅惑的なカードを持っていたこともあり、理香子は急に悠一にモーションをかけはじめた。  そして、理香子は見事に悠一とゴールイン。麗奈は運命の人を諦めるしかなかった。  理香子が悠一が浮気していると相談してきた時、麗奈は内心ざまあみろと思った。 落ちぶれた理香子を見て溜飲が下がる思いだった。 それだけで十分だったはずなのに、キャバクラ勤めがばれてしまうなんて。本当についていないと嘆くより他ない。  でも、もう何も心配はいらない。理香子はいなくなってしまったのだから。  シャンパングラスの中で弾ける黄金色の液体を喉に流す。 あまり聞いたことがない名の中小企業の社長がくれた高級シャンパンはとても美味だ。 乾いた喉を潤すと、またオペラグラスを覗き込む。青白い闇の中で絡み合う肉体。 ああ、あそこにいるのが私だったらよかったのに。逞しい筋肉がついた腕と胸に包まれる自分を想像すると、胸がときめき、体が熱くなった。 欲しいのなら自分の力で手に入れたらいい。堕落した天使が囁いている。そう、罪は蜜の味。一度覚えてしまえば中毒のように抜け出せない。 「ばれなければいいのよ、うまくやれるわ。私はできる女だものね」 高揚感に満ちた笑い声が、グラスのシャンパンを揺らす。 ああ、だんだんと夜の闇が濃くなっていく。 世界を覆う闇が心まで飲み込んでしまった。
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