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松明にした竹を握り、昇降口を抜ける。
すると、雪が渦巻のように正面玄関までの道を囲んだ。
―――くそ、嘗めやがって。
俺は炎の勢いを確かめるように松明をかざすと、その渦の中を歩き始めた。
背中に冷たい何かを感じる。
ゴゴゴゴゴゴゴ
地震のような変な音まで聞こえる。
振り返ると―――。
今しがた抜けてきたはずの昇降口があった場所に、雪が積もった岩壁が迫っていた。
「―――は?」
雪の壁がすごい勢いで迫ってくる。
―――このままじゃつぶされる…!
俺は松明を落とさないように握りなおすと、全力疾走で校舎前のロータリーを走り駆け抜けた。
凍り付き、蜘蛛の巣のようにひび割れている正面玄関の硝子戸を抜けると、やっと岩壁は動きを止めて、校舎は静寂に包まれた。
『ーーー目指すはボイラー室だ』
堀田の言葉を思い出す。
『18年前の火事もボイラー室の爆発が原因だった。そこにさえ上手く火をつけられれば、一気に燃え広がるはずだ』
『え、そんな危険なものに火をつけたら、俺まで炎に飲み込まれるんじゃ……』
顔を引きつらせると、堀田は笑った。
『ーーお前、野球は得意か?』
下駄箱を抜け、廊下を歩き、保健室の前を通過し、用具室の脇を通った。
【ボイラー室】
俺はそのドアを開け放った。
中央にボイラーと思われる銀色の円柱があり、そこから天井に向かって配管が伸びている。
俺はその位置と距離を目視で確認した。
胸元から堀田から預かった、古雑巾に松脂を塗り込んで縛りあげたボールを取り出す。
『ノックだ。わかるな?』
火のついていない松明を両手で構えて堀田は笑った。
『火の玉を打ち込んで、すぐさま逃げるんだ』
―――そんなにうまくいくのだろうか。
俺は雑巾に、小瓶に入れられたガソリンを振りかけた。
『ボールに火をつけた瞬間軽く投げる。
ノックをする要領でバッドに当て、ボイラーに打ち込み着火させる』
理屈では、できる。
だが―――。
わずかに躊躇して天井を見上げる。
「―――待てよ」
俺はそのまま天井を睨んだ。
この真上に2-4組はある。
もしここで自分がまた爆発を起こしてしまったら。
彼らはまた何が何だかわからず―――。
成仏できずにこの世界を漂うことになるのではないだろうか。
「―――何してるの?」
驚いて振り返る。
そこには、
「小浜………」
小浜麻子が立っていた。
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