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麻子は眉間に薄く皺をよせ、眉を緩やかにハの字にゆがめながら、こちらを見つめていた。
「竹原君、それ、なに?」
麻子は不安そうに俺が持つ松明と、松脂のボールを見比べて言った。
「あ……えっと」
どう伝えていいのか悩む。
18年前、ボイラーの爆発により、2-4にいたメンバーは自分たちがなんで死んだか知らない。
いや、死んだことすら気づいていない。
それをどう伝えるべきか。
どう納得してもらえばいいのか。
そうだ。
そうだよ。
今さらになって気づいた。
学校を―――。寐黒島を焼き払うということは―――。
何も知らないこいつらを、俺がもう一度殺すも同義じゃないか……!
「――みんなはどこにいる?」
俺は麻子に聞いた。
「え……みんななら、教室にいると思うけど……」
不安そうな表情を崩さないまま麻子が答える。
焼き払う前にせめて―――。
18年前に何が起こったか、俺の口から説明したい。
そしてできるなら―――。
自分の意志で逝ってもらいたい。
俺は廊下を歩きだした。
「…………」
何かを感じたのか、麻子も黙ってついてくる。
窓ガラスは割れ、容赦なく入り込んでくる雪で、廊下は濡れていた。
それに関しておかしいと思わないのだろうか。
麻子を振り返る。
そもそもこんな夜に学校にいること自体、不思議に思わないのか?
麻子は戸惑っている。
しかしその戸惑いは、学校の異様な雰囲気や、自分が置かれている状況に対しての不信感ではなく、炎が揺れる松明を持っている俺に対してのようだった。
【2-4】
クラスの標識は、爆発のせいなのか、外れかけ、ユラユラと揺れていた。
俺は意を決してドアを開け放った。
「――――」
「――――」
「――――」
授業中でもないのに、きちんと机を並べ椅子に座っていた生徒たちが振り返る。
割れた窓ガラスのように、または外れかかった標識のように、彼らまでボロボロになって目も当てられないような姿になっていたらどうしようと思ったが、幸いなことにどうやら杞憂だったようだ。
彼らは怪我ひとつなく綺麗な制服を着て、そこに座っていた。
「―――お前たちに、聞いてもらいたいことがあるんだ」
教室を見渡す。
廊下側の一番前の席。
湊斗の姿はない。
窓際の前から二番目の席。
東藤の姿もない。
俺はこくんと唾液を飲み込むと、声を張り上げた。
「18年前、お前たちは――――」
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