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◆◆◆◆ 俺は寐黒高校が火事で燃えたこと。 火は杉林に燃え移り、あっという間に寐黒町を包んだこと。 逃げ場を失った寐黒町民はほとんど火に飲み込まれて亡くなったことを話した。 それでも卓や佳織をはじめ、クラスメイト達は無表情で、物音ひとつ立てずにしんと静まり帰っていた。 「し、信じられないのはわかる」 こめかみから汗が流れてくる。 なぜだろう。 外は吹雪で、暖房もついていないのに、ひどく、熱い。 「だけど、お前たちはもう死んでるんだ。授業が終わって、学校から帰って、家に家族はいたか?」 俺は聞いた。 「授業も進まない。学年も上がらない。おかしいと思ったことはないか?」 皆が無表情で俺を見上げる。 「湊斗が転校してきたのはいつだ?今年じゃないはずだ。それなのに、お前たちは2年生のままだ。おかしいと思わないか?」 ギイと音を立てて、誰かが席を立った。 「―――卓」 俺は彼の方を見た。 無表情で立ち上がり、こちらに向けてすたすたと歩いてくる。 「……話は分かったけど」 卓は俺の正面まで来ると、足を止めた。 いつの間にか脇には狐とゴリラもいる。 「お前はどうなの?」 「――――は?」 予想しなかった言葉に俺は彼を見上げた。 「俺たちは18年前に死んだ。んで?お前はどうなの?生きてるの?」 「俺は―――」 「生きてんだな?」 卓の後ろにちょうど重なるようにして誰かの影が見えた。 「そんなの」 卓が口を開く。 影が重なる。 『不公平だろ』 影の目だけが俺を睨む。 その顔は―――。 ―――月岡……? 気が付くと俺は黒板に体を押し付けられ、首を絞められていた。 ★ 「ずるいよ、お前。なんでお前だけ生きてんの?」 卓が首を絞めながら顔を寄せてくる。 ギイ ギギイ ギギギ クラスメイトが一斉に立ち上がる。 「お前が入ってきたんだろうが」 卓がすごむ。 「俺たちの世界に、お前の方から入ってきたんだ」 「――――っ」 息ができない。俺は松明を持っていない左手で卓の腕をつかんだ。 「どうせ死のうとしてきたんだろ?」 「………ちが……、俺は……」 卓の顔に月岡の顔が重なる。 『だったら俺たちと一緒に潔く死ねよ……!』 卓の声に月岡の声が混ざる。 (―――っ。このままじゃ……!) 松明を握った手に力を込めた瞬間、わきからその腕を抑え込まれた。 「―――え…」 見ると、いつも麻子と弁当を一緒に食べている女子がこちらを見上げていた。 「―――っぐ」 足元には佳織とツインテールがそれぞれ俺の足を抑えていた。 いつの間にかクラスメイトに囲まれていた。 次々と手を伸ばし、俺の体の自由を奪っていく。 卓の指に力がこもる。 (や……やばい。このままじゃ、殺され―――) 指から松明が落ちる。 (……もう、だ………) その時、目の前にいた卓の肩に2つの手が見えた。 「――――?」 たちまち卓の体が後ろに引かれ、俺の首から指が離れた。 「ッッ!!ッオエッ!!」 えずきながら見上げると、卓は、殴られていた。 「―――え?」 右手を抑えていた女子の体が吹っ飛ぶ。 両足を抑えていた佳織とツインテールもそれぞれ引きずられていく。 ――――。 ―――どういうことだ? 目の前の光景は異様としか言えなかった。 クラスメイト達が、自分と同じ姿形をしたクラスメイト達に、それぞれやられている。 「―――何ぼさっとしてんだよ…!」 卓の胸倉をつかんでいる”卓”が叫ぶ。 「しっかりしろ!転校生!」 そう言って卓が拳を振るうと、殴られた卓はいつの間にか、担任の石塚の姿になった。 「―――え」 俺は教室を見回した。 やられている生徒たちは、次々に職員室にいた教師たちに姿を変えていく。 「ほら」 隣にはいつの間にか佳織が立っていた。 手には俺が落とした松明が握られている。 「さっさと、ボイラー室でも火薬庫でもいいから爆発させて来い!」 卓が叫ぶと同時に、殴られるだけだった石塚が突如として卓を掴み返した。 佳織の後ろでも、佳織と全く同じ姿をした誰かが立ち上がる。 「あぶない!」 俺が叫んだ時には、佳織は佳織によって引き倒されていた。 「早くしろって!」 石塚に殴られながら卓が叫ぶ。 「―――でも、それじゃあ、お前たちは……!」 「鈍いわね、あんた!」 佳織が、佳織に馬乗りになられながら叫ぶ。 「いい加減、家族のとこに帰りたいって言ってんの!」 佳織の目から涙がこぼれる。 「お母さんに、会わせてよ……!」 「――――ああ!」 俺は松明を握り直すと、教室を飛び出した。
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