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正直言って、ガソリンと松脂をしみこませた古雑巾に火が付いたかは目視ではわからなかった。
それでも竹に強く打ちつけられたそれは銀色の円柱めがけて飛んで行った。
『ーーー走れ!竹原!!』
鼓膜をつんざくような声が響く。
気が付くと俺は、廊下を駆けだしていた。
『死ぬ気で走れ!!』
駿丘中学校野球部を指導する曾根田コーチは、ヒットからの一塁駆け抜けの際、いつもそう叫んでいた。
ベンチに並ぶ後輩たちがメガホンを手に叫ぶ。
『2塁に回れー!!』
『いけー!!』
俺は渡り廊下までくると、右足を支点に左に折れた。
そのまま前傾姿勢で走り続ける。
ーーーベコッ!
何か金属が凹むような異様な音が響いた。
『走り抜けろ、竹原―!』
コーチの声がするのと同時に、後ろで爆発音がした。
熱風に押し上げられ、体が宙に浮く。
一瞬にして、真っ赤な光に身体が包まれる。
炎はすぐ背後まで迫っていた。
パチパチパチパチパチパチパチ
爆発音のショックで聞こえにくくなった鼓膜に、それでも確かに火が木を燃やしていく音がする。
それに、パキッ、ボキッと、爆発の衝撃で構造内の何かが崩れた音が続く。
燃え広がるスピードが、思った以上に速い。
俺は必死に逃げながら、すばやくあたりに視線を走らせた。
(湊斗は、どこだ……?)
『寐黒高校を焼き放ったら、自動的に彼も解放されて、現代に戻ってくるはずだ』
堀田はそう言ったが、本当にそうだろうか。
もし戻ってこなかったらーーー。
渡り廊下を走り抜けると、窓から炎に包まれつつある向かい側の校舎が見えた。
「――あれは」
屋上に人影が見える。
「――湊斗だ!」
そこにはフェンスから下を見下ろす湊斗が立っていた。
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