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「……お前!湊斗から離れろ!」
俺は火が消えたのも忘れて、棒を振りかざしながら蜘蛛に襲い掛かった。
「バカ!やめろ!」
後ろから東藤の声が聞こえたときには、俺は雪の積もる屋上に投げ出されていた。
東藤が駆け寄り、俺をかばうように前に立ちはだかる。
「あいつは―――あの蜘蛛だけは、わけが違うんだ!」
「なに!?」
俺も起き上がりながら蜘蛛を睨んだ。
確かに今まで見た黒蜘蛛とは違い、頭が光るように赤っぽい。
幼稚園児くらいの大きさの胴体に長い脚が八本ついているその容姿に、見ているだけで鳥肌が立つ。
「あれは……小浜なんだ」
東藤が忌々しいものを見るように目を細めながら言った。
「小浜って―――小浜麻子?」
俺は驚いて東藤を覗き込んだ。
「そうだ」
東藤は黒蜘蛛から目を離さないまま言った。
「あれが……?」
信じられなかった。
黒蜘蛛はなおも湊斗の体にまたがったまま、こちらを睨み、鋏角をモゾモゾと動かして威嚇してくる。
この禍々しい生き物が、小浜………?
「あの日、寐黒町が燃えた日、小浜は教室にはいなかった」
「―――は?」
「生理痛がひどいとかで、保健室にいたんだ」
「保健室に、一人で?」
「そう。爆発が起こり、ボイラー室と用務員室が吹っ飛んだ。階段を挟んだ保健室は、廊下から流れ込んだ炎に包まれた」
「―――」
俺は昨日の朝寝た保健室を思い出した。
「でもあの部屋、逃げようとすれば窓を開けて中庭に逃げられたんじゃ……」
「お前、避難訓練真面目にやってなかったクチか?」
緊迫した状況なのに、東藤は鼻で笑った。
「火事の時に窓を開けたら、外から流れ込んできた酸素によって炎は激しさを増すんだよ」
東藤は目を細めた。
「小浜はなす術もなく燃え盛った炎に巻き込まれ、保健室内で一人、焼け死んだんだ……」
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