256人が本棚に入れています
本棚に追加
叫ぶと、蜘蛛はピクリと反応した。
そして、諦めたように力を抜くと、ゆっくりと湊斗の上から降りた。
「……………」
俺は足を止めた。
「おい……、何してる?チャンスだぞ!」
東藤が声を荒げる。
―――だって。
この蜘蛛、さっきからーーー。
喰らおうとするどころか、
湊斗を守ろうとしてないか……?
俺はゆっくりと振り返った。
「ーー東藤」
蜘蛛と俺を交互に睨んでいる東藤に向けて、静かに口を開いた。
「お前、さっき、松明を俺によこしたよな。ライターで火をつけろって」
「は?こんなとき、何を言ってんだよ?」
「俺がライターを持っていることをなんで知ってた?」
「――――」
東藤が眉間に皺を寄せる。
「ーーいや、って言うより」
俺は額を強く撫でた。
「お前なんで自分のライターを使わなかった?」
「―――――」
東藤は口を結んで黙った。
彼はしばらく俺を睨んでいたが、やがてふっと笑うと目を伏せた。
ーーーやっぱり、そうか。
言葉を発しない彼に、俺は静かに口を開いた。
「俺は何も、お前を攻撃したいわけでも、ましてや倒したいわけでもないんだよ。願うのはただ一つ。お前や、この町が抱える恨みつらみとは、何も関係のない湊斗を解放してほしい。それだけなんだよ」
俺は松明を持っていない左手を、彼に向かって差し出した。
「………な、小浜」
最初のコメントを投稿しよう!