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俯いた彼の姿はいつの間にか、髪が長く、スカートを吹雪でひらめかせている、小浜麻子の姿に変わっていた。
「―――お前が辛かったのはわかる。俺も友人をいじめで亡くしてるから、余計に」
言うと、彼女の長いまつげがピクリと動いた。
「もしいじめがなかったら。お前は家に帰っていたかもしれない。火事からは逃げられなかったとしても、家族と一緒に最期の時を迎えられたかもしれない。お前の恨みはわかる」
彼女の目からこぼれ落ちた涙が、頬を伝って、顎からこぼれ落ちる。
「でもここにいたって何もならない。いくら湊斗の精気を貪ったところで、お前が生き返られるわけじゃない」
「――――」
彼女は答えないまま、倒れた湊斗を見ている。
「頼む。手荒なことはしたくない。湊斗を解放してくれ」
言うと、彼女は大きく息を吸った。
『―――私の恨みがわかる?』
視線を上げないまま、彼女が小さく囁いた。
『ーーあんた達はこれからも生きていくのに?』
彼女の真っ赤な目がこちらを睨んだ。
『あんた達には一生わからない!不細工で頭も悪く素行も悪いクラスメイト達に、馬鹿にされて虐げられて。高校を出る前での辛抱だって!あんな頭の悪い奴らなんかがいない大学に入ったら、私は人として、女として、飛躍するんだって!毎日自分を磨いて、その日を楽しみに、クソつまらない高校生活を我慢してきたのに…!それがすべて、すべて―――!』
彼女の目の横に、新たな丸い目が並び、四つの目が湊斗を睨んだ。
『そいつは……私の悲しみが詰まった寐黒島を、面白おかしく写真に撮りに来た。冷やかして、笑って、ネットに載せて。それで楽しんだ後は、また自分の人生に戻って何食わぬ顔で生きていく……。そんなの許せない!』
四つの目がこちらを睨む。
『湊斗は渡さない。この寐黒島が燃え果てても。地獄の果てまで道連れにしてやる……!邪魔するならあんたも一緒にーーー』
「……笑わせんな」
そのとき、背後から笑い声がした。
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