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振り返ると、今まで倒れていた湊斗が上半身を起こしてこちらを見ていた。
「それなら、『俺で我慢しとけよ』って提案したときに素直に従ってりゃよかったもののーーー」
湊斗は馬鹿にするように麻子を見上げた。
「欲を出して竹原まで欲しがるからこんなことになるんだろうが!」
こいつは、俺を守るために、小浜麻子に身体を差し出したのか?
「一度はやると約束した体だ。お前の好きに喰らっていい。ただし、竹原に手を出すのは、俺が許さない」
「――湊斗……!」
俺は彼に呼び掛けた。
「それじゃだめなんだ。お前の帰りをあっちで待ってる人がいる!」
湊斗の大きな目がやっとこちらを向いた。
「いねぇよ、そんなの」
ふっと鼻で笑う。
「俺はこう見えて3年も待ったんでね。それでもこの島に俺を探しに来たり、迎えに来た人間は一人もいなかった」
「当たり前だろ!」
俺は思わず叫んでいた。
「だってお前、生きてんだよ。あっちの世界で!魂が抜けてるけど、生きてる!」
湊斗は俺が言っていることがうまく飲み込めないようだった。
「はあ?何をデタラメ言ってんだ」
「デタラメなんかじゃない!お前の周りには今もたくさんの人がいてーーー」
俺は湊斗に叫んだ。
「横山さんもお前のこと、泣きながら待ってる!」
「――横山が?」
湊斗の顔色が変わる。
「だから、俺はお前を―――」
言おうとした瞬間、目の前を何か黒いものが通り過ぎた。
いつの間にか蜘蛛のそれになった麻子の手が湊斗に襲いかかってきた。
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