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「……その携帯、俺、見たことあるんだよな。なんかイタリア?だかの何とかってデザイナーが作ったとか言ってさ。プレミアついて、なかなか買えなかったから、アイツが馬鹿みたいに自慢してた」
言いながら堀田はスコップの感触を確かめるように撫でた。
「……それ、東藤のだろ?」
堀田は笑いながらのスコップを握りしめた。
「あんたが……」
俺は荒い画像でもはっきりと分かった堀田の少し突き出した目を睨んだ。
「あんたが、寐黒高校に放火したのか……?」
質問には答えずに、堀田はまだニヤニヤと笑っている。
「そのせいで町民の2千人以上が死んだんだぞ……?」
言うと彼はクククと笑い出した。
「そう。だから怖かったんだよ。2千人分の恨みが。2千人以上の亡霊が!」
黒い2つの目が俺を映す。
「全部お前が焼き去ってくれたんだ!!礼を言うぞ!少年!」
「―――狂ってる」
俺は舌打ちをした。
「なんで寐黒高校に火をつけた―――?」
問うと東藤は首を傾げた。
「お前も数日でもあいつらと一緒にいたらわかるんじゃないのか」
「なんだと?」
「だってあいつら―――」
クククと笑いながら、おかしくてしょうがないというように堀田は右手で自分の口を押えた。
「……最っ低のクソ野郎共だろ?」
焦点の合わない目が三日月形に変わる。
「卓は勉強もスポーツも大したことないくせにいつも粋がってるし、東藤だっていつもスカした顔して俺が好きな女をみんな盗っていくし。小浜にいたってはこの俺を、あろうことか、振りやがってさぁ!」
「――――」
なんだこいつ。
最低だ。
そんなつまらない理由で、クラスメイトを。
寐黒高校を、
寐黒町を、
自分の親まで―――。
殺しやがった。
「なあ、少年。君の大事な湊斗君は戻ってきたんだろ。それならもういいじゃないか。俺のおかげで湊斗君を助けられたの、忘れたわけじゃないだろ?」
堀田の口から涎が滴り落ちている。
とっくに正気じゃない。
「ふざけるな……!」
俺は堀田を睨んだ。
「あんたは、ただ、自分を恨んでいる寐黒島の人々を、滅ぼしたかっただけだろ!」
俺は東藤から託された携帯電話を握りしめた。
「――――」
目をギョロつかせたままそれを見下ろした、堀田の口が真一文字に結ばれる。
「―――あれ。もしかして。訴えるつもり?」
「これは、俺と東藤の約束だ。見過ごすわけにはいかない!」
俺は構えた。
雪かき用の鉄スコップは固い。重い。
しかも相手は正気を失った大人の男だ。
避けられるか?
避けてあいつの脇を抜け、外まで走り切れるか?
退院したての病み上がりの体で―――。
「……無理でしょ」
俺の視線を追った堀田が笑った。
「無事に逃げるなんて、無理だよ」
堀田はスコップを両手で持ち直し、左上に振り被った。
「………東藤によろしくな?」
スコップが振り落とされる。
意外に長さがあるそれは、
容易に俺の頭頂部に届いた。
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