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『次は赤波駅~赤波駅~。降り口は左側です。三陸渡會線はお乗り換えです。本日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました。赤波駅を出ますと、次は、終点、久保田駅です。
Ladies and gentlemen…』
「着いたぞ。修一」
都心から約2時間、ほとんど口を利かなかった父親が、俺の膝を軽く叩きながら立ち上がった。
荷物棚から中学時代野球で使っていたスポーツバックを下ろしながら、こちらを見下ろす。
「荷物、本当にこれだけなのか?」
俺は父親の髭がうっすらと生えた顎あたりを眺めながら答えた。
「他の物は送ったから」
「………そうか」
父親は言葉少なに返すと、スポーツバックを俺の膝の上に置き、手持無沙汰に窓の外を見つめた。
その視線に逃げ場を無くし、仕方なく自分も窓を見る。
二重ガラスの内側が、外との温度差のせいで少しだけ曇っている。
その奥に見える風景は一面真っ白で、そこが田圃なのか畑なのか、道路なのか空き地なのかさえ、定かではなかった。
「マジかよ……」
思わず呟いた言葉に父親が笑う。
「心配するな、修一。住めば都という言葉があるだろ」
そこで初めて、数年ぶりに父親と視線を合わせた。
「睨むなよ。しょうがないんだから」
まだギリギリ30代だというのに、やけに年を取って見える父親が苦笑する。
そうだ。
“しょうがない”。
他に選択肢がなかったのだから。
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