叶うか分からない夢に向かって努力し続けるのは、終わりのない地獄みたいだ。

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『そんなの、無理でしょ』  切り捨てるような杏里の言葉が何度も脳内に響いた。  悔しい。悔しくて悔しくて、頭が割れるように痛い。 『叶うか分からない夢に向かって努力し続けるのは、終わりのない地獄みたいだ。』  スマートフォンで執筆用のアプリを立ち上げ、書き殴る。  フォロワーの吉報を目にするたび、筆を折ったら楽になれるだろうかと何度も思った。夢なんか持つから悪いんだ、楽しく自分が好きなように書けたらそれでいいじゃないか、と何度も思おうとした。全部諦めてすっきりしたいのに、やめることができない。  書きたくない。でも書きたい。書けない。でも書かなきゃ。何かに突き動かされるように指を動かす。 『それでも、わたしは地獄の底であがき続ける。「夢」というのは、選ばれた者だけがたどり着ける宝飾店で買えるものではない。』  杏里には見抜かれていたのだ。私には努力し続ける覚悟がないってこと。だから「無理だよ」とばっさりと切られた。覚悟がないのに、夢を叶えられるわけがない。 『頭のてっぺんから足の先まで泥だらけになりながら掘り進めて、みつかる保証なんてどこにもないのに諦めずに掘り続けた人だけがつかみ取れるものなのだ。』  始めた物語は終わらせなければならない。どんな駄作でも、みっともなくても、終わらせられるのは私だけなのだから。  私の人生は、いつか「終わる」のだ。綺麗な(エンディング)を迎え、カタルシスを感じるためには、起伏がないといけない。小説と同じだ。  杏里は私を嗤うかもしれない。努力してもいつまでも思うような評価は得られないかもしれない。それでも、自分を信じて、掘って掘って、掘り続けないといけない。  違和感に顔を上げる。真っ暗な部屋の中、姿見にぼんやりとした明かりが映っていた。首を捻る。私の顔が、スマートフォンに照らされて鏡の中で発光していた。
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