叶うか分からない夢に向かって努力し続けるのは、終わりのない地獄みたいだ。

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 本を拾ってタンスの上に戻そうとした時、手が滑ってまた床に落ちた。はずみで開いたページの章タイトルには、こう書いてあった。「努力は必ず報われるとは限らないけど、成功者は全員努力してる」。まるで私への当てつけみたいに見えて、急いで本を閉じてタンスの上に置き直した。視界に入らないように、奥に追いやった。  ――タイトルも内容も、借り物だらけの言葉のくせに、私より上に立ったような気になって。何様なんだよ。挑戦、私だってしてるよ。全然実を結ばないけど。  気配を感じて顔を上げれば、部屋の隅にある姿見の自分と目が合った。  髪の毛はボサボサ、左頬の中央に吹き出物ができている。目の下にはクマ。疲れ切った私が、生気のない目でこちらを見返していた。  ――ねえ、杏里、知ってた? 挑戦して結果を出してる人は輝いて見えるかもしれないけどさ、ただ何かに挑戦してるだけの人は全然輝いてないんだよ。  鏡に背を向ける。ドアを開けると、お母さんの得意料理、ビーフシチューの香りが鼻腔をくすぐった。
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