叶うか分からない夢に向かって努力し続けるのは、終わりのない地獄みたいだ。

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「他の人がすごすぎて、私なんか全然だけどね。この前、ランキング20位以内に入れた、って嬉しくなってツイッターで呟こうとしたら、フォロワーさんが1位だったりとか。嫌になっちゃうよ」 「そうなんだ。カナはさ、小説家になりたいの?」  探るような口調だった。 「まあ、そうだね。デビューできたらいいなと思ってる。狭き門だし、難しいとは思うけど――」 「そんなの、無理でしょ」  言葉を遮られ、スパンと切り落とされた。 「だって、今の時点で自信ないんでしょ? その程度でデビューできるわけないじゃん」  痛い。痛い痛い痛い。お腹をおさえる。もう聞きたくない。スマートフォンを持つ手が震えているのに、耳から離すことができない。 「ごめんごめん、あたし毒舌だから、また言いすぎちゃった。気にしないで。カナ頑張ってね、応援してる」  表面だけなぞったみたいな、おざなりな言葉なら無い方がマシだった。 「実はあたしね、カナに話したいことがあって電話したの」  杏里が「底抜けに明るい声」に戻ったのを聞いて、ああ、これから本題に入るのだと悟った。 「あたし、ずっと海外で働きたいと思ってて、コネ作りとか、語学の勉強とか、色々頑張ってたんだけど、ついに来年の4月からイギリスで働けることになったんだ! 今日はその報告。カナに会えなくなるのは寂しいけど、お互い、いろいろ頑張ろうね」  気づいた。踏み台にされたのだと。私は杏里にとって「下」の存在で、適当に扱っていいし、自慢話をしても問題のない、都合のいい人としか思われていないのだ。  そこから何を喋ったのかよく覚えていない。多分、ひたすら杏里にあいづちを打って、「気をつけてね」とか「日本に帰ってきたら飲もうね」とか、当たり障りのないことしか言っていないと思う。 「またねー。落ち着いたらあたしの本の感想聞かせてね」 「うん。それじゃ、元気で」  電話が切れた。すっかり日が落ちていて、部屋の中は真っ暗だった。電気をつけないと。そう思うのに、その場から立ち上がる気力がなかった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加