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「他の人がすごすぎて、私なんか全然だけどね。この前、ランキング20位以内に入れた、って嬉しくなってツイッターで呟こうとしたら、フォロワーさんが1位だったりとか。嫌になっちゃうよ」
「そうなんだ。カナはさ、小説家になりたいの?」
探るような口調だった。
「まあ、そうだね。デビューできたらいいなと思ってる。狭き門だし、難しいとは思うけど――」
「そんなの、無理でしょ」
言葉を遮られ、スパンと切り落とされた。
「だって、今の時点で自信ないんでしょ? その程度でデビューできるわけないじゃん」
痛い。痛い痛い痛い。お腹をおさえる。もう聞きたくない。スマートフォンを持つ手が震えているのに、耳から離すことができない。
「ごめんごめん、あたし毒舌だから、また言いすぎちゃった。気にしないで。カナ頑張ってね、応援してる」
表面だけなぞったみたいな、おざなりな言葉なら無い方がマシだった。
「実はあたしね、カナに話したいことがあって電話したの」
杏里が「底抜けに明るい声」に戻ったのを聞いて、ああ、これから本題に入るのだと悟った。
「あたし、ずっと海外で働きたいと思ってて、コネ作りとか、語学の勉強とか、色々頑張ってたんだけど、ついに来年の4月からイギリスで働けることになったんだ! 今日はその報告。カナに会えなくなるのは寂しいけど、お互い、いろいろ頑張ろうね」
気づいた。踏み台にされたのだと。私は杏里にとって「下」の存在で、適当に扱っていいし、自慢話をしても問題のない、都合のいい人としか思われていないのだ。
そこから何を喋ったのかよく覚えていない。多分、ひたすら杏里にあいづちを打って、「気をつけてね」とか「日本に帰ってきたら飲もうね」とか、当たり障りのないことしか言っていないと思う。
「またねー。落ち着いたらあたしの本の感想聞かせてね」
「うん。それじゃ、元気で」
電話が切れた。すっかり日が落ちていて、部屋の中は真っ暗だった。電気をつけないと。そう思うのに、その場から立ち上がる気力がなかった。
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