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だよなあ、と思うもつかの間、急ぎ足で階段を駆け下りる女子生徒が一人。顔も見たことのないその子は、割れたスマートフォンカバーの片方を拾い上げた。首の方だ。もう片方も手に取り、元に戻すかのように繋ぎ合わせる。が、手は震えている。
肝心のスマホの方は見えないが、タッチパネルが地面と接触しているあたり、結末は想像に難くない。運がよければ液晶割れ、悪ければ故障だろう。
今度から階段降りる時スマホ触るのやめよ、と心に決意した後、最後の四段を降りる。運が悪かったなとその子を一瞥すると、偶然にも目が合ってしまった。
絶望していた。特に目が。
手元のスマートフォンは案の定画面がバッキバキに割れている。その子が手元で何度もホームボタンを押すが、画面は真っ暗なままだ。運が悪いパターンだ。故障だ。ウサギのみならずスマホも死んだらしい。
カチカチカチ、と、ボタンを押す音だけが無慈悲に響いている。当然画面はつかない。
「な、なんでスマホ、画面つかないんですか……?」
「なんでって……、階段から落としたんでしょ? そりゃあの高さじゃ壊れるよ、普通に」
あまりにも常識外れな発言に、思わずため息が漏れた。
機械音痴か? とその子を見るが、相変わらず手は震えて目は濁っている。相当ショックだったらしい。それとも混乱しているのか。
「おばあちゃんが言ってたんですけど、こういうのって、た、叩けば、直りますか……?」
「いや、叩いて直るわけないって」
機械音痴なのか、混乱してるのか、それともちょっと頭がアレなのか、正直判別できない。が、ここで何を言ってもそのスマホが生き返ることはない。
諦めていないのか、それとも現状を理解していないのか、再びカチカチとボタンを押す音が鳴る。
「もう死んでるんだから何やっても無理だって。諦めなよ」
「スマホがないと困るんです」
いやそれは俺だって急に壊れたら困るけど。
「んなこと、家で考えればいいでしょ」
その子は何も言わない。
どうにもその場からその子が動く気はないらしく、無意味な音だけがむなしく響いた。
これ以上付き合ってやる道理もないなと、俺は背を向ける。
「か、帰れないんです! マップアプリがないと!」
踏み出した足がピタリと止まる。
「……マジで?」
振り返って呟くと、その子はこくこくと何度もうなずいた。
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