ピーチティーには砂糖を入れない

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 狢縛り(むじなしばり)でベッドに全裸でいる女は中学校の教諭だ。  25歳。  彼女は中学の頃の担任だった先生に憧れて教師になったものの、現実は生意気な生徒と堅苦しい体制やPTAに辟易し、俺のところに来た。  はじめはただ居酒屋で酒を飲んだり、ボーリングをしたり、ダーツをしたり、ビリヤードをしたりした。 「きっかけ」を見つけたのは夜のドライブだった。  深夜の一時頃。  ふいに呼ばれ、湖に向けてドライブした。  他愛のない世間話をしていたのだが、突然泣き出したのだ。 「何もかもがイヤ」「自分が、イヤ」  と、彼女は言った。  駐車場を見つけたのでそこに車を止めて、俺はただ彼女の頭を撫でていた。  しばらくして、落ち着いたところで俺は彼女を外に出した。ちょうど目の前には湖が見える。 「昔ね、」と俺は言った。  昔よく琵琶湖に行ったんだ。  何かモヤモヤしているとき、ムシャクシャしているとき、車を走らせて琵琶湖に向かった。  本当は海が良かったのだが近くに海がなかったので仕方がなしに琵琶湖に行ったのだ。  そこでぼんやりと湖面を眺める。  湖でも、しっかりと波はあって、音が聞こえる。  その音を聞いていると、だんだんと落ち着いてくる。  湖にも、水平線がある。  そんな話をした。  そして俺は、服を脱いだ。全裸になる。  全裸になって、煙草を吸った。  彼女は「ちょっと」とか「まずいよ」とか言っていたが俺は聞かなかった。 「服を着ている動物なんてこの地球上で人間くらいだ。裸なのが自然なのに、自然な姿をしただけで、異端に思われる。犯罪になる。捕まる。変な世の中だよね」  いや、だけど、と彼女は慌てていた。煙草が半分になる。 「たぶんきっと唯(ゆい)ちゃんは疲れちゃったんだよ」  俺の言葉を聞いて、彼女はきょとんとした。少し肩の力が抜けたみたいだ。  何を言っているの? とも、何をしているの? ともとれるが、ただ単に何かを不思議に思っているようだった。 「少し、舐めてみる?」  普通なら、こんな男を見たら変態扱いされる。引かれるし、軽蔑される。通報されるかもしれない。だけど彼女は、小野寺唯は俺のちんぽをしゃぶった。  信頼関係ができていないと、こういうことは出来ない。  一歩前に進むためにも、この行為は大切だ。
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