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監視カメラのひとつが不調となった。
走入は堂園が留守の時間帯を狙い、玄関の扉をピッキングして破り、再度侵入を果たした。不調だったカメラを直した。そのついでに屋敷内の至る所に児童ポルノ写真集を仕込んでおいた。ベッドの下。通勤鞄の中。神棚の裏。ありとあらゆる場所へ仕込んでゆく。もはやリアリティーなどあってなきが如し。細かなことなどどうでもよかった。とにかく堂園の妻の目につきそうな場所に脈絡もなしに次から次へと親の仇のように児童ポルノを仕込んでゆく。さらに堂園の目につきそうな場所に、警察署の証拠品保管用金庫から抜き取った覚醒剤のパケを無造作に仕込んでおいた。仕上げとして、堂園の妻のハメ撮り画像をプリントアウトしたものを覚醒剤のパケと一緒に並べておく。これは走入がスマホのアプリで作成したフェイク画像である。これがフェイクであると見破れるのは、画像を合成した本人である走入と、ハメ撮りのモデルにでっち上げられた堂園の妻のふたりだけであろう。それほどまでにこのハメ撮り画像の出来映えは真に迫っていた。
その日の夜、再び堂園家は大荒れに荒れた。すでに夫婦仲は完全に冷えきっていたが、今回の一連の大規模な仕込みによって堂園夫妻の関係は完全に崩壊したのであった。
ヒステリックに泣き叫ぶ堂園の妻は玄関から蹴り出され、自宅に立て籠った堂園は雄叫びしながらゴルフクラブを振り回して次から次へと新居の内壁と家財道具を破壊しまくった。
走入はエス〈二号〉に命じて、匿名で110番通報させた。二十分後、白黒ツートンカラーのパトカーがサイレンを鳴らしながら二台連なって到着。パトカーとは無縁な高級住宅街だ。パトカーのサイレンが物珍しかったのだろう。辺りは野次馬でごった返して騒然となった。
走入は三十年越しの勝利を確信して感無量であったが、喜んでばかりもいられなかった。これまでの監視に要した巨額の費用は経費ではまるで足りず、ほぼ自腹で用立てたものだったのだ。ささやかな貯金を切り崩してもまるで足りず、ついには十日で二割の利子の闇金からカネを借りて費用を捻出してようやくここまでの成果を上げたのだ。走入は今や無一文であった。三人のエスたちにはもうこれ以上のギャラを支払えない。いずれ彼らはタダ働きに不満を抱き、結局は走入に愛想をつかすだろう。それでも走入は感無量であった。堂園晃の夫婦関係を完全に壊滅させてやったのだ。だがまだこれで終わりではない。堂園を社会の底辺に転落させてやるのはこれからだ。まさにこれからなのだ。
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