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走入はピッキングして玄関扉を難なく破り、一号宅に侵入した。家屋内には生活の気配が漂っていた。人使いの荒い公安警察から逃れるべく夜逃げしたようには見えない。一階の部屋をくまなく見て歩き、二階へ足を運ぶ。二階は数千冊にもおよぶ大量の児童ポルノ関連書の貯蔵庫として使われていた。一号のコレクションはどれもこれも市販品であり、児童ポルノが法律で禁止される以前であれば合法であったものばかりだ。走入は二階を一通り見て不審がないのを確かめてから一階へ降りて、すべての部屋を詳しく調べてみた。台所のテーブルの下に中途半端な大きさの絨毯が敷いてあるのが気になる。台所の床に絨毯を敷くということ自体が奇妙だが、その中途半端な面積もさらに奇妙である。走入は何とも言えぬ悪寒を感じながら、テーブルを脇によけて絨毯をめくり上げてみた。床下へと続く正方形の扉が現れた。意を決して扉を持ち上げて開け放った。不快な周波数の異様な音が鳴り響いた。視界が黒一色に覆われた。数百匹の蝿が一斉に飛び出したのだ。耐え難い異臭が台所中に漂いはじめた。走入は懐中電灯で床下を照らしてみた。全裸の女児の遺体が横たわっていた。遺体の脇に女児のものと思われる衣服とランドセルが並べて置いてある。ランドセルを引き上げて中身を改めた。行方不明になっている霧島のどかちゃんの名前が記された教科書やノートが入っていた。
エス〈一号〉が女児行方不明事件の犯人だったのだ。はじめからわかりきっていたことだが堂園晃は無実なのである。堂園の冤罪を晴らしてやるにはエス〈一号〉が犯人であることを公にすればよい。だがいくつか問題がある。まず第一に公安警察官である走入がここを令状なしに家宅捜索した理由と根拠を説明できない。第二に、エス〈一号〉が逮捕された場合、一号は取り調べの場で、女児殺害に関係のないことまですべてを洗いざらい自白してしまう可能性がある。走入が一号から児童ポルノ写真集を購入してそれを堂園宅に〈仕込んだ〉ことを喋られたら、走入は処分を免れない。良くて所轄の警備課へ左遷。悪ければ僻地の交番勤務。最悪の場合は退職だが、警察は身内に甘いから懲戒免職だけは免れるだろう。いずれにしても県警本部にはいられなくなる。中卒ながら警察官として採用され、公安警察官に抜擢され、大卒採用や高卒採用の連中の数千倍いや数万倍も努力して警部補にまでなった。左遷など真っ平御免だった。
エス〈一号〉が警察の手に落ちる前に、その汚い口を塞いでやらねばならない。走入は決意を固め、台所の床を塞いでテーブルを元の位置に戻した。すべてを元通りにして、家屋への侵入の痕跡を消し去った。
走入はいったんアジトへ戻り、それから一号と関わりがありそうな人物を片っ端からあたってみた。しかし一号の行方はつかめなかった。
堂園は捜査一課の鬼刑事たちから連日連夜取り調べられてついに心が折れたのだろう。やってもいない霧島のどかちゃん誘拐を自供し始めた。テレビ各局は〈児童ポルノ禁止法違反で逮捕されていた元会社役員堂園晃容疑者四十五歳が女児誘拐を自白〉と一斉に報じた。走入の焦りは頂点に達した。いずれ走入は公衆電話を使って匿名で通報し、霧島のどかちゃんの遺体がエス〈一号〉宅の床下に眠っていることをほのめかすつもりだが、そのためには捜査一課よりも早く一号を見つけ出し、永遠に一号を葬りさらねばならぬ。
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