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走入の制服のベルトは堂園たちのグループに取り上げられた。走入は教壇の前に立たされ、女子たちの到来を待ち受けた。
「無理だよ堂園。出来ないよ。無理だ」
「制服のズボン下ろすだけだって。キャーと叫んでドカーンと受けてそれで終わり。たいしたことねえって」
堂園は走入の背後に隠れ、走入の制服のズボンに手をかけてスタンバっている。
「堂園、無理だよ。本当に無理なんだ」
「女子が来たぞ」
堂園グループの誰かが言った。男子たちが固唾を飲んで見守る中、女子たちの一団が教室の中に雪崩れ込んできた。
「ジャーン!」
如何にも生意気盛りといった堂園の声と共に、走入のズボンとパンツは床まで引き摺り下ろされた。走入のまだ皮の剥けておらぬ穢れなきイチモツが女子たちの目前にさらされた。
「ぎゃあ! 変態!」
女子たちの悲鳴は、永遠に消えることのないトラウマとなって、走入の精神に深く刻み込まれたのだった。
男子たちの中でただひとり、走入益世だけが校長室に呼び出された。走入は、校長と教頭と学年主任と生活指導に取り囲まれ、二度と立ち直れないような罵詈雑言を浴びせかけられた。
「おまえは変質者だ。将来は必ず警察の厄介になる」
学年主任が息巻いた。
担任は大学を出たての若い女教諭であった。この女は弱い立場の者に声を掛けようともしない冷血漢であった。このとき担任の女が走入に向けた冷めた眼差しを、走入は長きに渡って夢にまで見てうなされ続けることになる。担任はこの下半身露出事件を境に走入を完全に無視するようになった。後に県立高校受験に失敗した走入が「滑り止めの私立への進学ですが、やめます。理由は、家の経済的な事情です」と申し出たのに対し、担任はただ一言「はい」と応じただけであった。
一方の堂園は県立普通科のエリート進学校に見事合格を果たしていた。堂園と対照的に、走入は高校進学を断念して就職し、非正規雇用の肉体労働者となった。
車窓の向こう側で、正義感ぶって弱者に手を差しのべた堂園を目の当たりにして、走入は久しぶりに思い出した泥々の屈辱感にまみれながら、ただひたすら奥歯を固くギリギリと噛み締めたのだった。
堂園晃。あの男を叩き潰してやる。公安警察官としての職権をすべて使い、全力でもって堂園を破滅に追いやり、社会的に抹殺してやる。
怨みの渦は今、ごうごうと音を鳴らしながらゆっくりと回転し始めていた。
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