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女王のマントと暗闇
皆を照らし輝きと微笑みでもって幸せにする女王は、皆の憧れの存在。
その影で暗闇は誰にも関心を向けられず、寧ろいつだって忌避されるべき存在だ。
そんな暗闇が、焦がれて焦がれて止まないものがあった。
それは、女王の背ではためく女王のマントだ。
時には女王の気分で、またある時には美しい風景に合わせて色彩豊かに変化する女王のマントは皆の賞賛を浴び、暗闇にとっても羨望の的であった。
だから暗闇は、マントが女王の背では無く豪華絢爛な洋服掛けに掛けられている時、女王のマントだけになる隙を見ては、マントが自分にとって如何に素晴らしくて、どれほど必要な存在かを、言葉だけでは無く身振り手振りで語って口説こうとするが、マントの返事はいつだってツレ無いものばかりだった。
けれどもマントがげんなりする程、暗闇が諦めずに、口説いてくるので、無口だったマントは根負けして、とうとうこんな事を訪ねてみた。
「お前はオレをその背に纏いたいのかい?オレがお前の背でどんな色になった所で、お前はお前だ。女王のようにはなれないぜ」
暗闇はダメだ、無理だみたいな意思表示しかしなかったマントが長文を喋った事に一瞬驚き、
「そうだな。ボクは別に女王みたいになりたい訳じゃないよ。ボクはただ、君と旅をしたいんだよ。君は一度見た色彩ならいつだって好きな色になれるんだろ?ボクは全身、暗闇色だからさ、様々な色彩に憧れるんだ。毎日見ている空の色だって、青空色や夕焼け色とかいつも違う色をしていてさ、とっても綺麗だろ。だから、世界中にはもっと沢山の綺麗な色があるんだろうなって。そんな未だ見た事の無い景色を、ボクは君と一緒に見たいし、何より色鮮やかに染まる美しい君を誰よりも近くで見ることが出来れば、身体はどんなに暗闇色でも、ボクの心はいつだって君と同じ色になれるんじゃないかって思ってさ」
と、胸の内を説いた。
マントは物心ついてから、代々の王の背に式典や大切な時にしか身に付けて貰えない希少な宝として扱われ、王宮や王宮近辺から出た事は無かった。
だから、暗闇の話には興味を引かれ、
「オレは代々、王のものだ。だからお前のものにはなれない。だが、少しだったらお前の旅に付き合ってやっても良い」
ひらりと洋服掛けから飛び出して、暗闇の手の中へと舞い降りたのだ。
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